感慨深いことに、これが正真正銘、23/24シーズン(カレンダー上はとっくに終わっているが!)の最後の記事となる。
きちんとした形で報告することができていなかったが、私自身も5月末のタイミングで日本に帰国した。行ったその週にクラブ買収が完了し、それを祝ったパーティーの翌日にいきなり新オーナーからスタジアムに招待されたのが昨年の7月。そこからの内容が詰まりに詰まった10ヶ月間、様々な出来事をこのSubstackやインスタで紹介してきたが、ひとまずはそれも今回が最終回だ。
夢の中を歩き続けたようなシーズンだった。これまでと何ら変わらないものを見ているはずでも、自分の立っている場所が違うだけで、見える景色は劇的に変化するのだということを改めて思い知った。もちろんそれは毎週末通った「あるクラブ」に留まらず、結果として半数を優に超えるクラブと直接触れ合うことで垣間見た、EFL全体の風景もそうだ。レスター、ポーツマス、ストックポート。イプスウィッチ、オックスフォード、クロウリー。今シーズンの優勝チーム、そして劇的な1年を過ごした各リーグの主役たちの姿は、おそらく今後永遠に私の記憶に残り続ける。
スタジアムでフットボールが見られて、生きた英語に触れることができて、寒さと雨にもずっとずっと慣れ親しめる。今この立場で帰国したからこそ、はっきりと言い切ることができる。イングランドに行って本当に良かった。理解しようとすればするほど、このリーグと文化はあなたに報いてくれる。少しでも「EFLに興味があるなら」、ぜひ現地でその本物を体感するべきだと思う。
私にとってそうであったように、より一般的な視点から見ても23/24シーズンのEFLは意義深いシーズンであったように思う。フットボールの洗練が進み、4,5年前からですら考えられないほどに各クラブが高度な戦いに挑み始めた1年。未だに「イングランド下部」を錆びついたステレオタイプで語る人々をあざ笑うかのように、遂にLeague Twoからの昇格を果たすチームでさえ特異なスタイルを持つようになった。
シーズン中のワイドフォワードの記事でも取り上げたように、もちろんここには先鞭をつけてきたイノベーターの貢献がある。しかしその中でヴァンサン・コンパニらの取り組みが孤立せず、むしろスタンダードとして受け入れられ始めた背景には、やはりリーグ自体のレベルアップという観点を用いないわけにはいかない。国全体としてのフットボール界の財政レベルが他国と比して圧倒的なレベルに到達しつつあるからこそ、下部リーグであっても外部からの優秀な血を次々に取り込むことができて、必然的な帰結としてフットボールのレベルが上がっていく。この流れに停滞の兆しは見えない。
結果としてルーク・ウィリアムズやスコット・リンジーのような優れた戦術家がL2からでも生まれ、その一方でスティーヴ・エヴァンズやニール・ハリスのトラディションを基軸としたスタイルにも再注目が集まる。ウェイン・ルーニーやマーク・ヒューズのような指導者が時代に取り残される。ピラミッド全体に健全な競争原理が機能している。
それはクラブ運営に関しても概ね共通している。経営問題などはそれぞれの事情があるにしても、今や下部リーグからのし上がっていくクラブには一貫したクラブ主導での選手編成・育成戦略というキーワードが欠かせない。今季昇格を果たしたクラブという意味ではジョン・ムシーニョとデズ・バッキンガムの2人だけではあったが、ジェネラルな潮流として監督の肩書も “Manager“ から “Head Coach“ へと変わりつつある。
一昔前のような監督にチーム作りの権限を投げてしまうやり方ではなく、クラブ主導で指揮官が誰であろうと一貫したスタイルを継続する重要性が語られるようになったのも、あるいはこの好況に起因することなのかもしれない。残念ながらピラミッド内での貧富格差は拡大のベクトルを向いており、傑出した結果を残した人物はすぐさま上位ヒエラルキーからの誘惑を受ける。だからこそこれまで以上に、属人化されないクラブとしてのアイデンティティが求められる。言うは易く行うは難し、多くのクラブがその理想と現実の狭間に苦しみ、何人かのアーリーアダプターたちのみがその実行に成功した。
さらに同様の視点から、リクルートメントの多極化というポイントにも触れなければいけない。坂元達裕、三好康児、(まだ英国でプレイしていないが)角田涼太朗という3人の日本人選手の名前をここで無視するわけにはいかない。この文章を日本で書いていることを抜きにしても、ベ・ジュノやペク・スンホ、クシニ・イェンギといった面々がそれぞれのリーグからEFLに加わったのは紛れもなく一つの目立った変化で、国籍を抜きにしてもクロウリーの到底無謀に思われたノンリーグ偏重補強からクライディ・ロロスやジェイ・ウィリアムズ、果てはジェレミー・ケリーというとんでもない掘り出し物までが出てきた事実がある。もう以前のようにスカウトが「足で稼ぐ」時代はとっくに終わり、いかにスカウティングツールをうまく用いてundervalueの選手を拾い上げるか、そんなデジタル活用力が要求される時代が訪れたのだ。
これらを踏まえれば殊更に、現在のEFLは見る側のリテラシーも問われるリーグになってきている。おそらく世界でも有数のレベルと言っていいはずだ。それほどまでに変数が多く、それほどまでに可視化が難しい要素に溢れている。今シーズンで言えばチャンピオンシップでのイプスウィッチの躍進を予想した人ほどLeague Twoでのクロウリー昇格など到底予想できなかっただろうし、そうでない人であればチャンピオンシップ上位で降格組にL1からの昇格組が割り込むことを予期できなかっただろう。
だからこそこのリーグを評する際には使い古された紋切り型の考え・言葉は極力捨てるべきだし、訝しがるばかりでなく時に踊る、そんな柔軟な姿勢を持つべきだ。アンダーラインデータもそう、古き良きナラティヴもそう、ここ数年で現地イングランドでのEFLを取り巻く言論環境が目を見張る発展を見せているのも決して偶然ではない。それだけこのリーグには良質な気付きと未知なる部分が溢れている。
下部リーグという特異な状況下にあってもその近代化の歩を止めないEFLを観察し続けることは、一フットボールファンとしての喜びであり学びだ。どれだけ知ろうとしても必ずその奥の存在が現れる。開幕前の予想などまったく当たらないのも当然なのだ。この言い訳を早く言いたかった!
ということで、恥を忍んで優勝予想全外しの開幕前の予想も参照しながら、今シーズンの各リーグを振り返る。
チャンピオンシップ
巷の大本命だったレスターを敢えて3位以下と予想し、結果的に優勝されてしまったわけなので、その点だけを切り取っても褒められたものではない。「予想外のことはあまり起きそうにはない」という方針はそこそこ合っていたが、まあそれくらいなものだ。
このハズレの最大の要因となったのは、やはりエンツォ・マレスカの監督としての実力を見誤ってしまったことだ。
唯一の監督歴となる21/22シーズンのパルマは、今シーズンのレスターと非常の多くの共通点を持つチームだった。ブッフォンやフランコ・バスケスといった2部には似つかぬスターを抱える降格組で昇格候補に挙げられ、3年契約を用意されてフルでプレシーズンも与えられたものの、PPG1.5前後の成績に留まり11月には解任。自身が求めるフットボールを植え付けるには「まだ時間が必要だった」と話していた。
前述のマーティンも同型だし、当然そういった監督を呼ぶこと自体が悪いということではないが、少なくともヴァンサン・コンパニと彼を同列に並べることはできないだろう。もちろんその時から時間も経っているので、マレスカが成功する可能性を否定するわけではない。ただそれを予感させる論拠が現状他の監督に比べて少ないことも事実だ。
もちろん開幕前の段階でこういった見方をしたことにまったく悔いはなく、むしろ今見返してもロジカルな帰結であるようにすら思う。当初の私だけでなく、多くのファンからも懐疑的な見方を浴びせられ続けた中で自らの実力を証明した彼のパフォーマンスを褒めるしかない。
マレスカにはシーズンを通してややアンフェアな批判が寄せられていた。そこにはレスターが直近の成功を掴んできたスタイルとの相違や、内容を考えれば完全に出来過ぎだった序盤戦を経ての期待値の上昇など、様々な要因が絡んでいたように思う。ともすれば内部から崩壊が始まってもおかしくなかったような状況の中で、しかし選手やスタッフとの関係を良好に保ち続け、スタイル面でも自らの道を歩み続けた心の強さは、はっきりと彼が「理念だけ」の監督ではないことを物語っていた。
それだけに先述のファンからの反発や1月のステファノ・センシ補強問題など、彼の足を常に引っ張っていたのはピッチ外の要素であったように思うし、シーズン中に勝ち点剥奪の処分が下らなかったことはもはやラッキーだったと結論する他ない。一監督としてのキャリアを考えれば当然とも言える彼のチェルシー移籍は勝ち点剥奪スタートが濃厚となったシーズン中から十分に考えられたことで、にもかかわらずその後後任探しにそれなりの時間を要し、結果的にマレスカのスタイルとは特に親和性のないスティーヴ・クーパーを招聘した監督人事にも不安が募る。ここでクーパーを呼び以前のスタイルに回帰するのであればこの1年をマレスカに任せた意義が「結果的に昇格した」以外に何一つ残るようには思えず、クラブとしての中長期的な視野を見出すことは難しい。今やリーグの間を乱高下するような期待値のクラブではなくなったからこそ、ここでははっきりとこの1年間での目に余った点も指摘した。
優勝予想ながら2位、それでも自動昇格は掴んでくれたイプスウィッチ。多くの方からあの予想への驚きの声を頂戴したが、私としては当時も書いた通り、「あの3部でのパフォーマンスを思えば何ら不思議のない予想」という感覚だった。
しかし当然、シーズンが進んでいく中で周囲の降格組3チームを相手取っての大立ち回りを演じる彼らの姿に、もはや感動にすら近い感情を覚えていったのも事実だ。イプスウィッチの代名詞となった終盤でのゴールは、決して「最後まで諦めないから」などといった投げやりな精神論で片付けられていい話ではない。チームの細部にまで原理原則を徹底し、システマチックに相手への勝負を挑み続けられるからこそ、試合の終盤に相手の決壊を招くことができる。歴とした、純然たる、リーグ史に敢然と刻まれるべきチーム力の勝利だった。
キーラン・マッケンナには相応の評価がなされるべきだ。改めてこんなことを書くのにはもちろん理由がある。私には、彼が現時点で受けている評価がまだ物足りないからだ。
新オーナーの就任直後とはいえ3部で強烈なunderachieveの状態にあったクラブを次の年にはリーグ史上最高レベルのチームに立て直し、そのままノンストップでプレミアリーグまで駆け抜ける。大した補強があったわけでもなく、それまで身分相応のリーグにいた選手たちをプレミアリーグに何ら恥じぬ存在に育て上げる。一つ一つの発言と仕草に品位が伴う。この監督になら、「完全無欠」という言葉すら使ってもいい。
だからこそマンチェスター・ユナイテッドがいくらでもあったタイミングをフイにして彼の復帰に本腰を入れなかったのは真に恥ずべきことだと思うし、逆にシーズンオフ、マッケンナ自身が監督としての評価を高めに高めたこのタイミングを活用しなかったのも正直残念に思う。チェルシーだろうが、ブライトンだろうが、他のどこであろうが、彼は監督を務めるに相応しいレピュテーションと実力を持っていた。
ヴァンサン・コンパニの例は特殊中の特殊だ。彼やロブ・エドワーズが所属クラブへの忠誠を誓ったことは確かに美しいストーリーだった。しかし結果的にシーズンが終わってみれば、彼らは(普通であれば)ステップアップのお声がかかるようなポジションから外れてしまった。マッケンナはコンパニのように圧倒的に「残留争い」に向いていない監督ではないと思うし、イプスウィッチには戦力が大量に流出する危険性も少ない。ただ現実問題として、来シーズンの彼らは残留を必死に目指さざるを得ない立場だ。
トップチーム監督としてのデビューを飾った彼の3年間を見届けた身としてひとえに思う。どうかキーラン・マッケンナは、少しでも長い間EFLから遠い存在であり続けてほしい。ここはもう、彼のいるべき場所ではないのだから。
2位予想のリーズ、そしてPO圏予想のサウサンプトンは書いたことも含めそこそこの結果だった(ダニエル・ファルケの件だけあまり良くなかった)が、残りの2チーム、ウェストブロムとノリッジはマーク外の存在だった。前者に関してはシーズン前の段階で深刻な経営問題が表面化しており、カルロス・コルベランの去就もかなりグレーに近い不透明な状態だったので、プラス材料を見出すのは難しかった。同様にノリッジも尻つぼみで終わった前シーズンからの上積みがほぼ見当たらず、デイヴィッド・ヴァグナーに関する強調点もさして見当たらなかったのが正直なところだ(というか、多分1月に予想をやり直していてもPO圏内には入れなかったと思う)。前者に関しては監督を、後者に関してはガブリエル・サラを中心とした選手たちに手放しの称賛を贈るしかない。
降格予想の2チームに関しても、それぞれの監督交代までの戦いを思えば「至極当然の予想だった」として正当化して何ら問題ないだろう。シーズン前の段階で途中の監督交代(+その後任の能力)まで見越して予想するほど馬鹿な話はないので、この順位に入れる以外に道はなかったように思うし、同時にシーズン中も何度も書いてきたダニー・ルールとマルティ・シフエンテスへの絶賛の数々の意味を今一度わかっていただけるはずだ。特にQPRなどは、現時点で言えば24/25の昇格候補ダークホースに挙げてもいいほどの状況にまでチームが上がってきている。彼らもまた、昨今のこのリーグのレベル向上を様々な面から裏付ける存在だ。
そしてバーミンガムである。(Footballistaさんの記事にも散々書いたので)もう今さら長く触れることは避けるが、これだけの戦力を持ったチームの3部降格もまた、23/24のEFLを象徴する出来事の一つだった。先に同じく、ウェイン・ルーニーの監督就任を予想することはシーズン前には不可能なので、ダークホースとしてあえて名前を挙げた予想に悔いはない。しかしこの残留争いのレベルでは、そのたった1つの失策が命取りになってしまった。「50ポイント以上取っての降格」もまた、今以上に日常的な出来事になっていくのかもしれない。
League One
昇格した3チームは一応予想の上位6つの中に全て含まれてはいたものの、こちらも優勝したのはPOコンテンダー予想のチームだった。そのポーツマスの躍進の理由は、既にこの記事の中でも名前が出ている上層部の体制にある。
監督として初のフルシーズン、スタイルや勝ち方こそ大きく違えど、ジョン・ムシーニョがL1の舞台に刻んだ足跡は1年前の先人にも引けを取らない誇るべきものだった。思えば就任直後、まずは守備の整備から入り礎となる引き分けを多くもぎ取った昨シーズンの段階で、その片鱗は見て取ることができていた。シーズン通してわずか5敗、しかもその内3つが年末年始の中で喫した立て続けのものとあって、基本的にはほぼ負けずにシーズンの大半を過ごしていたことになる。誰か強烈な個の力がいたわけでもなく、飛び道具的な何かがあったわけでもなく、まさしくチーム力でリーグを制したシーズンだった。
22/23に歴史的な争いを演じた3チームが抜けた後で、降格組のうち2つがピッチ外での難局を迎え昇格組の脅威も見出しづらかった陣容とあって、戦前には大混戦が予想されたシーズンだった。今にして思えば、そういった中で抜け出してくるのは、いつだってこのポンペイのような負けないチームだ。ある程度はシーズン毎の前進が約束されていたボルトンであったり、こちらも監督の名前からしてL1での計算が立つダービーであったりを上に取ってしまったが、主力流出もなく有望な監督の2年目、前シーズンからの上積みという点では優勝予想に足る理由がいくつもあったと思う。少し悔しい予想だった。
その優勝予想としたボルトンは期待に応える争いを演じてはくれたものの、結果的にウェンブリーで夢破れ、来シーズンもまたL1に留まることになってしまった。この結果をイアン・エヴァットにとっての「失敗」と見るべきではないという個人的な意見は、POファイナル直後の記事にも書いた通りだ。このプレシーズンには既にその反省を活かし、アイデンティティとすら言えた3-5-2偏重からの脱却にもトライしている。
ダービーのL1暮らしは2シーズンで幕を閉じた。リアム・ロシニアーに早々に見切りをつけ、ベテランを中心に揃えたスカッドにポール・ワーンまで招聘してなりふり構わず挑んだ即時昇格への挑戦。それでもPO圏にすら届かなかった昨シーズンを経ての2位自動昇格は、堅実な方法論を重ねて掴み取った結果と言えるだろう。エイラン・カシン、マックス・バードといった若手主力の活躍は当然目立ったものの、一方で中長期的な展望が伺える戦いぶりだったかと言われれば疑問は抱かざるを得ず、また短期的なところでも来シーズンへの見込みという意味では強気にはなれない。残留に向けては今よりもずっと大きな上積みが必要になる。
他にPO争い予想とした中ではオックスフォードが感動的な昇格を成し遂げた一方で、チャールトンが期待を裏切るシーズンを過ごした。シーズン前の予想でも触れた通りまずは監督のディーン・ホールデンが経験の浅さを露呈した上、今シーズンに限っての意味ではその後のマイクル・アップルトンという後任の人選がとどめを刺してしまった。実権を握って間もない新オーナーグループの見通しに当然の疑問符が付いたことは否めないものの、その中でネイサン・ジョーンズが就任した後の守備が安定しまず引き分けが増えた戦いぶりは昨季のムシーニョ、あるいはその前のマッケンナを彷彿とさせるものがある。何より重要なことに、ファンと監督との信頼関係はここ数年で一番と言ってもいい。辛うじて24/25の上位進出への予兆は感じさせる終盤戦だった。
その他もはや名前すら出すべきではないジョーイ・バートンの行動の数々に振り回されたブリストル・ローヴァーズ、ポテンシャルは示したもののまださすがに若すぎた印象のウィガンといったダークホース予想勢は中位に沈んでしまった。ただ敢えて言うなら今シーズン「ダークホース」予想をして正解になり得たのは7位のリンカーンくらいで、彼らにしても監督交代を経ての急上昇だったことを思えば、ここは正解がなかったと言ってもいいかもしれない。概ね順当な結末を迎えたシーズンだったと結論付けていい。
同じことは降格争いにも言える。個人的には4チームどこを取っても「予想外」の降格ではなく、そもそも戦力的に厳しかったり長年のリーグスタックによって疲弊していたりといずれも納得の降格だった。ただその中で、考えうる限り最悪の環境下でついぞ1年を過ごし切ったレディングの残留は完全に予想外の出来事だ。最後まで投げ出さなかったという点も含めればルベン・セジェスが成し遂げた仕事はEFL全体で見ても特筆級の偉業と言ってよく、それだけに依然として遅々として進まないクラブ売却の行方が本当に腹立たしい。どうか一刻も早く、彼らファンに救いの手が差し伸べられることを願う。
League Two
League Twoには昨シーズンと比べて極めて顕著な変化が現れた。22/23シーズンのリーグ総得点が1,294点。そして23/24のリーグ総得点は1,645点。今シーズンは実に、昨季より350回以上も多くゴールネットが揺れたことになる。
チーム単位で見てもその変化はわかりやすい。ここ5年間における1チームの最多得点記録は18/19シーズンのベリーがマークした82得点だった。上の順位表を参照してもらえればわかるように、なんと今シーズンはその記録を5チームが塗り替えたことになる。もちろんその内の3チームが自動昇格、即ちL2の「勝ち方」が明確に変わった1年だと言えるだろう。
剰え私が優勝予想としたノッツ・カウンティなどは、シーズン89得点を記録しながら14位である。これは言うまでもなくリーグワーストの86失点を喫した守備面の問題が影響しており、目立つところではルーク・ウィリアムズのシーズン途中の退任があったとはいえ、その引き抜きの前から失速気味だったことは無視できない。ここ数年で築き上げたexpansiveなスタイルは間違いなく通用はしていたものの、前線からの守備でキーマンとなっていたルベン・ロドリゲスがオックスフォードに抜け、その代わりを運動量のあるタイプではないダン・クラウリーに任せた影響が最も大きかったように思う。スチュアート・メイナードへの監督交代後はほぼチームが崩壊してしまったが、前任地での実績を思えば彼もまた侮られるだけで終わるような監督ではない。シーズンオフには既に守備陣の大量補強を見せいくぶんかの現実路線への回帰を示唆しており、そこにクラウリーやジョーディ・ジョーンズといった反則級の駒がハマれば2年目の逆襲も十分に考えられる。
結局のところストックポート、レクサム、マンスフィールドの自動昇格勢は、1年間を通して大きな穴に嵌らなかった3チームだった。MKドンズがシーズン最初からマイク・ウィリアムソンだったらどうだったかわからないが、結局地力という意味で彼ら3チームが抜けていたことは否定しようがない。それだけにシーズン終盤まで展開された優勝争いは毎週鬼気迫る様相を呈していて、ここには時間をかけずに「史上有数の」という修飾語を付けていいだろう。
シーズン前に「自動昇格は堅い」と評したストックポートは大方の予想通りの昇格を優勝という形で勝ち取った。チーム内に複数ポジションをこなせる選手を高い次元で揃え、どんな相手に対しても対応できるだけの方法論を担保したチーム作り、そしてそれを可能にしたデイヴ・チャリナーの手腕には感服するばかりだ。さらにこのシーズンオフにはコーリー・アッダイやルイス・ベイトをはじめとして加入選手の平均年齢21.6歳、リセールバリューを考慮し始めたかのような目新しい補強方針を示し始めてもおり、クラブとしてのステージを順調に上っていっている様子が伺える。おそらくはL1でもPO争いあたりにはすぐに加わってくるはずだ。
やや話題先行の感があると評したレクサムの自動昇格にも称賛を贈らなければならない。スティーヴン・フレッチャー、ジェイムズ・マクレーン、ジャック・マリオットなど、シーズン途中も含めてあまりにもお馴染みの面々ばかりを獲得していったスカッドビルディングには隔世の感があったものの、結果的にはそれがフィル・パーキンソンのスタイルにも合っていたのだろう。逆に言えばその膨大なポテンシャルを完全に発揮しているとは言えない状況下で掴み取った2シーズン連続昇格、そして各チームからの徹底マークを浴びる中で結果を出し続けているクラブカルチャーという意味で、このチームの積み上げは無視されて然るべきものではない。現状のスカッドでは3シーズン連続昇格はさすがにあまりにも厳しいものの、またしても進歩を遂げるシーズンを迎える見込みは十分にある。
そして遂に「永遠の昇格候補」としてのプレッシャーからいくぶん解放されたようだったマンスフィールドが悲願の昇格を掴んだ。アンダーラインデータの面で言えば攻守両面でリーグ史上最強級の数字を残し続けた1年間。目立った名前もデイヴィス・キーラー・ダンくらいしかいなかった中とあればそのチームを組織したナイジェル・クラフの功績を称えないわけにはいかず、ようやく上昇請負人としての面目躍如を果たした栄光のシーズンとなった。
そして最後の最後、このリーグのみならず23/24のEFL全体でのStory of the seasonを掻っ攫っていったのが7位のクロウリー・タウンだった。悪評高いオーナーが完全にやる気を失ってしまったように見えたプレシーズンの奇特な動き、そうしてやってきた無名を極める選手たちと指揮官が展開した過激で美しいフットボール、そして歴史的なプレイオフキャンペーンで見せたその一秒一瞬。シーズン終盤はこのSubstackもクロウリー列伝のような更新になってしまったのでもう詳細は省略するが、もちろん私だけではなく多くの有識者が最下位予想をしたチームが見せた快進撃は、今後そう再現されるものではないだろう。
それだけにシーズンが終わった直後、あまりにも早くこの歴史的なチームの大解体が始まってしまった残酷なツイストには、「惨たらしい」という言葉を使わざるを得ない。中心選手が揃いも揃って、あのPOファイナルで先発した選手のうち既に8人を退団「させた」中で、このシーズンオフだけで退任→再就任を果たすそれ自体がクラブの混乱を象徴する動きを見せた会長のプレストン・ジョンソンは「正直なところファンの反応には驚いた」と宣ってみせる。やはり根本的な部分では彼らはイングランドの文化を理解できておらず、同じ過ちを繰り返すのではないかという疑念は全く拭えない。
ただそれをもって彼らが23/24に成し遂げた功績が色褪せるわけではない。それは既に輝かしく不滅の歴史として本に刻まれた。後日譚がどんなものになろうとも、クロウリーは多くの人の記憶にその雄姿を残してみせたのだ。
これ以外にも、こちらも歴史に残るドンカスターの終盤戦猛プッシュやアンダーラインデータを無視して最後まで突き進んだハロゲイトの健闘など、ありとあらゆるところに見どころが散りばめられたL2のシーズンだった。私が昇格候補に挙げたジリンガムのオーナー起因での自滅や謎の低空飛行で終始残留争いに絡み続けたサルフォードなど、順当なら上位争いに入って然るべきチームの不振もまた、第三者視点では混沌に拍車をかける見逃せない要素であったように思う。総じてEFL3ディヴィジョンのうち、もっとも情報を追う喜びを感じられたリーグだった。
その意味では降格組フォレストグリーンの2シーズン連続降格にも触れなければいけない。長期的な視野を見据えて招聘したはずのデイヴィッド・ホースマンに早々に見切りをつけ、パブリシティに魂を売ってしまったトロイ・ディーニーの任命で貴重な時間を浪費。実績者スティーヴ・コットリルに手綱を託した段階ではもう状況は手遅れになってしまっていた。
下からの昇格組が平気で優勝候補になり、上からの降格組が平気でボトムハーフに沈む。何も今年に限ったことではなく、こういったことが頻繁に起こるリーグである。今シーズンで言えばモアカムなど往々にして財政問題が絡んでいることも多く手放しで喜んでいいのかは疑問だが、L2を中心に取り巻くリーグとしてのダイナミズムはまさしく唯一無二のものだ。この予測不能性により広範な注目が集まることを強く願う。
さて、これが23/24シーズンの最後のポストになる。もともとイギリス移住に際してその記録の意味も込めて始めたSubstackなので、もう今は私自身が日本に帰国した身であることから、定期的な更新という意味ではこれが最後の記事だ。
今後Substackをどう使っていくかはまだ決めていない。というか私が今後何をしていくかがまだ決められていないので、活動自体がどうなっていくかもわからない。DAZNでの放送がおそらく消滅する24/25シーズン(何も知らないが!)、日本におけるEFLへのアクセシビリティも大きく変化するものと思われ、このアカウントでの活動にも大きな困難が生じてくる。
願わくはこのSubstackも何らかの形で活かしていきたいと思う。定期更新という形にはならないものの、ブログとはまた違ったトピックを扱える場としての価値は書いている私自身が最も感じたところだ。読んでいる皆さんにとってもそうであったことを願う。この場を通してEFLやイギリスについて、今までより少しでも多くの親しみを感じてもらえたのなら本望だ。
それでは、また会う日まで!