開幕から3ヶ月半が経過し、ここまでEFLでは16クラブがシーズン途中で新監督を迎えた。自ら辞任したニール・ウォーノックやギャリー・ラウエット、ブリストル・シティに引き抜かれたリアム・マニングのような例もあるため一概に「解任」とは括れないが、理由が何であるにせよまだ新監督が決まっていない3つのクラブも含めて、EFL全体で3分の1近くのクラブが既に監督探しを強いられたことになる。
その中で、EFLにおける新監督探しには一つ興味深い特徴が出てきた。以前の「シーズン途中就任」といえば “Managerial Merry-go-round“ とも揶揄されたお馴染みの名前での持ち回り制のような要素があり、日本でも代表的なところで言えばミック・マッカーシーやサム・アラダイス、スティーヴ・ブルースなどといった名前がブックメーカーの一番上に来ることが定例化していた。
しかし今シーズン途中就任を果たした面々の名前を見ると、そのカテゴリーに辛うじて入ってくるのはナイジェル・アトキンス、ダレン・ムーア、マイクル・アップルトン、ダレル・クラーク、グレアム・アレクサンダーといったくらいなものだ。直近(11/23時点)で任命された面々を見るとその傾向はより顕著で、マイクル・スクバラ、デズ・バッキンガム、スティーヴン・クレメンス、ジョー・エドワーズ、マイク・ウィリアムソン、マルティ・シフエンテス、ダニー・ルールといった監督たちは一切EFLでの経験を持たず、昨季クロウリーでごくわずかな指導歴を持つだけのマシュー・エザリントンやまだ38歳のリアム・マニングといった面々も「いつもの」と言うには違和感がありすぎる。
客観的なデータにもその変化は現れている。今から5シーズン前の18/19シーズン、シーズンの現段階までに任命された新監督11人の平均年齢は46.9歳だった。翻って今シーズン、16人の平均年齢は42.9歳。しかもこれは58歳のアトキンス(18/19シーズンを含めても最高齢)なども含めた上での数字なので、いかに平均及び下限が下がっているかは一目瞭然だ。これを裏付けるように、30代で就任した監督の数を取っても18/19がリッチー・ウェレンズただ1人だったのに対し、今シーズンは既に6人の30代が新監督に就任している。
「トレンドは変化した」、そう言い切っていいだろう。
ではなぜ変化したのだろうか。若い監督を就任させるごとに奨励金が出るわけもないし、ウェイン・ルーニーを除けば皆現役時代にさしたる実績を残していたわけでもない。
そこにあるたった一つの理由は、それが成功への最適解と思われているからに他ならない。
昨シーズンを例にとろう。チャンピオンシップで優勝したのはイングランド初挑戦の37歳ヴァンサン・コンパニで、ルートンを偉業とも言うべき昇格に導いたのも(2クラブ目だが)昨季がCH初挑戦だった40歳ロブ・エドワーズだった。League Oneで伝説の優勝争いを繰り広げたスティーヴン・シューマッカーとキーラン・マッケンナはそれぞれプリマスとイプスウィッチで監督業初挑戦の30代で、League Twoにいた同カテゴリーの成功監督はデイヴ・チャリナーくらいだが、その代わり今シーズンには42歳のルーク・ウィリアムズが目を見張る成功を収めている。
もっと言えばその前のシーズンだってL1とL2の優勝監督(リアム・リチャードソンとロブ・エドワーズ)は極めてEFLでの経験が浅い両者だったし、昇格というわかりやすい結果が出ていない中でもカルロス・コルベランやマイクル・キャリック、ヨン・デール・トマソンといった面々が傑出した成果を上げていることにも触れておく必要がある。
また「シーズン途中就任だからこそわかりやすい戦術が必要」という迷信も今や過去のものになった。実際に上に挙げた中でも(一部特殊な例は除くとしても)エドワーズ、チャリナー、キャリックといったあたりは経験が浅いながらも途中就任ですぐさま高度な戦術と成功を引き出していた。さらに今シーズン途中就任した面々でも(結果だけではわかりづらいが)ルールやシフエンテスが瞬く間にシェフィールド・ウェンズデイとQPRに仕込んだ考え方は彼らに残留への希望を明確に照らし出させていて、最も時間を擁すと思われたウィリアムソンさえMKドンズの結果を即好転させた。
だからもう、今やEFL各クラブのボードにとって、(ニール・ウォーノックを除き)「とりあえずベテランに頼っておく」という保守的な選択肢の逃げ道はロジックを持たないものとなってしまったのだ。これは非常にシンプルな話だ。ミック・マッカーシーに頼ったブラックプールは就任後無残な成績を残して降格し、スティーヴ・ブルースに頼ったウェストブロムはコルベランに救われるまで低迷を囲い、マーク・ヒューズに頼ったブラッドフォードは1年半を浪費する結果に終わった。
以前の4バックの記事にも書いたが、EFLという狭いコミュニティ内でのトレンドは比較的早く変化していく。他者の成功は自らにとっての思考のヒントであり、それを自分たちに適応できない理由は往々にしてない。フットボールファンの中にはいつまでも思い出の時代の記憶を頼りに「監督の使い回し」に言及する人がいるが、もうそんな時代はとっくに過ぎ去っていることを認識しなければならない。
しかしここでもう一つの疑問が提起される。一体何がこの変化を生み出すきっかけになったのだろうか?
少し前まで、こういった若く(一般的に)経験の浅い、“Unproven” な監督の任命は「データドリブンアプローチ」と不可逆であるとされ、従ってブレントフォードやブライトンといったクラブの専売特許のように扱われていた。もちろん今では間違いなく全てのクラブが何かしらの先進的なツールを各種意思決定に導入していて、時代が移り変わったという側面はある。ただそれにしても、それだけがこのドラスティックな変化を主導したようには思われない。
ここで考えなければいけないのがファン、そしてメディアという外部環境の変化だ。
この数年間に渡って、EFLを一つの観察対象として見た場合に、その解像度が劇的に上がったことを実感できる。これはDAZNでの放送が本格的に始まった日本に限った話ではない。
イギリスではこの時期にハイライトの放送権を取ったQuestとプレゼンターだったコリン・マレーが放送枠を2時間に拡大してL1とL2を取り上げるための時間を増やし(その後やる気のないITVによって今はまた適当な扱いに戻されてしまったが)、Skyによる新放映権ディールでTV放送される試合数も増えた。そして何より、NTT20をはじめとする「野生のメディア」が一気にその名を挙げ、かねてからステレオタイプで語られがちだったEFLにプレミアリーグ級のインサイトとオピニオンを発信し始めた。
人々が彼らを支持するのは、その発信が到底生半可な姿勢で継続できるようなものではなく、理性と知性と熱意に基づいた聴き応えのあるものだからだ。かねてからの各クラブのファンを見識で唸らせ、それほど興味を持っていなかった層まで内容の興味深さで取り込む。その両方を兼ね備えていなければ、このようなマイナーコンテンツで収益を生み出すのは不可能だ。
そして必然的に、そういった発信ができる人々が高く評価するのは、その裏に確たる狙いや中長期的なビジョンが垣間見える “経験の浅い“ 監督の起用である。その考え方が広く一般にも受け入れられるようになったことで、実際の業界内にもそのチャレンジを行う機運・あるいはExcuseが入ってきているのではないだろうか。
メディアの発展は文化を育てる。そして発信活動を行えば誰でも勝手にメディアになること自体はできるが、メディアとして大きくなればなるほどその活動の意義は広がっていく。今EFLで起きている監督の若返り、先進的な考え方の浸透、フットボールの純然たるレベル向上は、全てここ数年で急速な発展を遂げたメディア環境に直結している。
私自身、この活動を10年前に始めた時のきっかけは、日本においてEFLの情報そのものがないという状況へのアンチテーゼだった。それから数年間は今思えば適当で恥ずかしい発信活動だったという反省があるが、当時大きな批判を受けることもなく続けられていたのは、それでさえ日本では貴重なEFLの情報発信だったからなのだと思う。
今はその当時に比べて放送も開始され、日本人もいてニュースの数も増えた。だからこそストレートニュースなどではなく、コンテクストや見逃されがちな部分に着目して一歩先の情報を伝えなければ意味がないと思っているし、正確性に人一倍気を配るのは当然の義務ですらある。
それがきっと、フットボール界の何がしかのポジティヴなことに繋がるはずなのだから。
今週のEFLアイキャッチ
チャンピオンシップ:今年最後の邪魔な週末、おしまい!
League One:新米監督にEFLの洗礼、しかも洗礼中の洗礼!
League Two:4つ巴の昇格争い
League One
なんとも寂しいことに今週はたった2試合だけ。本来はポーツマス-オックスフォードなどといった対戦も組まれていた週末だったが、それだけ3部からでも代表に選ばれる選手が増えているということなのだから、無理やりそのポジティヴに目を向けよう。
その中では新監督のデビュー試合があった。先週リンカーンの地に着任したのはマイクル・スクバラ、ここ1年半はリーズで数々の役職に就き、今年2月のジェシー・マーシュ解任後にはトップチームの暫定監督にもなったことがある。その前にはイングランドのフットサル代表で監督を務めていたこともある変わった経歴の持ち主で、これが41歳にして初のトップチームでの監督職だ。
そんな新米監督にとって、リーグデビュー戦がスティーヴネッジとのアウェイ戦、つまり百戦錬磨のスティーヴ・エヴァンズ相手というのは考え得る限り最悪の状況だったことだろう。これが監督キャリアの795試合目、未だ時代に取り残される気配はない。
9月の終わりから10月中旬にかけてはリーグ6試合で1勝2分3敗という我慢の時期もあったが、そこから立て直しての公式戦5連勝。リンカーンをシュート5本に抑え、攻めてはジェイミー・リードの今シーズン11ゴール目。消化試合数の多さはあれど昇格組ながら堂々たる4位、昨季L2で見せた強みを何ら変わらぬ形で1ディヴィジョンでも披露している。
先週は1週間を通じて古巣ロザラムからの関心も伝えられたが、その後の報道によればもう彼は新監督候補からは外れたとのこと。今EFLで最もフィットした関係のクラブと監督、SteveEvansNageの解体が免れたことにファンは無心で喜ぶべきだ。
もう1試合は試合を開催できたことがやや意外なブラックプールの快勝劇。先週超劇的な勝利を演じたシュルーズベリーを4-0で寄せ付けなかった。
まず何といってもこの試合で注目すべきは、ジェイク “xGessley“ ビーズリーの2ゴールだ。その2本のシュートの合計xG、なんと驚愕の1.90!フットボール史を振り返ってもこれ以上に簡単だった1試合2ゴールもそうはないはずだ。
まだ相手GKをラウンドした2ゴール目には彼自身の見せ場もあったが、1点目に関してはとんでもない位置でのとんでもない打ち損じがたまたまGKに当たっただけだ。それでも結果だけを見れば2ゴール。この前のチェルシーのニコラス・ジャクソンのハットトリックもそうだったように、ストライカーの評価というものつくづく難しい。
その2ゴールを含め、この試合のブラックプールの4得点は全てストライカーによるものだった。ビーズリーが2点、ジョーダン・ローズがPKで1点、そして途中出場のカイル・ジョセフが1点(+1アシスト)。この夏L1にやってきた選手の中では最高額の移籍金を発生させながら、加入直後の怪我で戦線を離れていた。元はウィガン、そしてスウォンジーで長く有望株に挙げられてきた選手でまだ22歳、ここからの上昇に期待がかかる。
League Two
順位表の上では5位クルー、6位バロウも僅差で続く状況ではあるものの、パフォーマンス面での評価という意味においては、現在のL2はトップ4の4チームが頭2つ抜け出す様相を呈している。今週はレクサムがその枠だったが、この時期からたった1つ負けることに小さくないプレッシャーがかかる状況は珍しい。高いレベルでの昇格争いが続いていきそうだ。
12連勝である!前回とまったく同じことをあえて今週も書くが、ストックポートのこの連勝記録は衝撃的なレベルで過小評価されていると声を大にして言いたい。そもそも内容が伴っていなければ達成できっこない長さの記録であることはもちろんとして、攻守全ての面で穴が見当たらない。今週も得点者はカイル・ウートンとカラム・キャンプス、数週前にはいなかった主力選手だ。
もともと昨シーズンでさえ「リーグ内で最も強いチーム」でいる期間が一番長かったのはストックポートだったが、その彼らが昇格を逃したというだけでなく、数々の新戦力やデイヴ・チャリナーによる確かな積み上げも相まって、明らかに昨季以上のパフォーマンスを発揮しているのがこの連勝に表れている。ぜひともこのままアンタッチャブルレコードを残してほしい。
「強くなるシーズンを間違えてしまった」という表現が実によく当てはまるのは2位のマンスフィールドだ。この期に及んでも未だ無敗、前から書いているのでご存知の方も多いかとは思うが、依然xGとxGAが共にリーグトップというアンダーラインデータの傑出ぶりもキープし続けている。
今週もデイヴィス・キーラー・ダンの2ゴールで古巣対決となったグレアム・コクランのニューポート相手に2-0の完勝。この試合1人でシュート6本を記録し従前のショットモンスターぶりをアピールしたキーラー・ダンだが、その一方で「難くて遠いシュートしか決めない」イメージからは脱却の兆しがあり、この2試合でボックス内からのシュートを2本決める大きな成長ぶりも見せている。
今週一番の個人パフォーマンスを挙げるとするなら、迷いなくノッツ・カウンティのダン・クラウリーを選ぶ。Sky放送カードに選ばれてのランチタイムキックオフ、多くの「一般層」が目撃したのは、遂に自らの居場所を見付けた天才が躍動を重ねる姿だった。
時にはパスで、時には自らの侵入で自在にハーフスペースを突くセンス溢れるプレイはもちろん、何より圧巻だったのはそうはお目にかかれない4点目のトリックだ。あんなことができるのはLuxuryそのものな思考回路の発露ではあるが、その他の場面での貢献を見ればただ単に彼が遊んでいるだけではないこともすぐにわかり、「いい意味での遊び」と形容する余地が生まれる。こういったイマジネーションの選択肢が生まれること自体に今の彼の充実ぶりが示され、引いてはその(多くのクラブが持てあました)才能を十二分に引き出すルーク・ウィリアムズの手腕にもそれ相応の称賛が送られるべきだろう。ルベン・ロドリゲスの穴埋めというほぼ不可能にも思えたタスクをここまで即座にこなす彼の活躍、クラウリーにもノッツにもあっぱれと言いたい。
先にも述べた通り、今週トップ4の中で唯一遅れを取ったのはレクサムだった。しかもアクリントン・スタンリーとなんだか奇妙な場外乱闘を戦っての敗戦、アンディ・ホルトの試合後の赤ワインだけが進む結果だ。
事の発端は試合の3時間前にレクサムが発表した1つの声明だった。アクリントンは今シーズン、アウェイファン向けのチケット代を20ポンドに設定しているが、なぜかこのレクサム戦だけはその料金が25ポンドに設定されている。これに対しレクサムは試合の直前になり、「この価格設定を受け、レクサムホームでのアクリントン戦ではアウェイファンのチケット代を5ポンド割引する」と発表したのだ。
この件においてどちらかの肩を持つことは極めて難しい。まずレクサムの普段のアウェイ向けチケット代金は24ポンドで、アクリントンのそれと比べて4ポンドも高い。発表のタイミングもおかしければ、そもそもここまで簡単にチケット代の値下げを行えるのは他クラブに比べて圧倒的な資金力を誇るオーナーが運営するレクサムだからこその特権なので、その行為自体の価値もかなり低く見積もられるべきだ。
一方でアクリントンがレクサムだけに対してチケット代を値上げするのはやはりあまりにもアンフェアだ。そしていつも通り、試合の前後に渡ってTwitterで喚き続けたアンディ・ホルトの態度も恥さらしという他なかった(いい加減売却も明言したのだから誰かが彼からソーシャルメディアを取り上げるべきだ)。総じてどちらの側にも感情移入することはできず、とても下品な争いだったと言えよう。
そんな中、ピッチ上で笑ったのはアクリントンの方だった。これでPO圏浮上の7位、レクサムはアウェイでやけにロースコアゲームが続いており、9試合で7点しか取れていない。
一方下位に目を転じれば、ボトム4同士の直接対決2試合が行われた。結果?言うまでもなく、いずれもドローである。
先週ナイジェル・アトキンスが正式監督に就任してからの初勝利を挙げたトランメアは9試合目にして今季アウェイでの初ポイントを獲得。しかし得点はオウンゴール、そして88分に追いつかれたということもあって、満足感高く家路についたのは最下位サットンの方だっただろう。
そしてもう一方のフォレストグリーン 2-2 グリムズビーは各所で書いた通り現地観戦してきた。観戦記そのものはインスタをご覧いただくとして(ずっと行ってみたかったスタジアム、本当にいい経験だった!)、試合自体という観点から見てもこの日大変重要だったのは強風というファクターだった。
それぞれ風下に立ったのは前半がフォレストグリーン、後半がグリムズビー。そしてハイライトをご覧いただければわかるように、フォレストグリーンが前半に2点、グリムズビーが後半に2点を挙げた。逆方向に攻める時は高く蹴ってしまうとボールが戻ってきてしまい、また単純に風の中を前進するやり辛さも強く作用していたように思う。
FGR側は恵まれたPKの判定もあり前半終了時には快勝かなとも思えるパフォーマンスだったが、後半は風上になったこともさることながら、ここ最近と同じでどこか気の抜けたプレイであるように見えたのが心配だ。球際のガツガツした感じがハーフタイムで失われ、攻勢に出たグリムズビーに対してなすがままにされてしまったような印象だった。一方暫定監督下のグリムズビーにもさしたる攻撃パターンは見受けられなかったが、後半から出てきたカミル・コンティが中盤の底で良い基盤を提供し、落ち着いたボール捌きで後半の反撃を引っ張っていたことを書き残しておきたい。
残留争いはまだまだ序盤戦に過ぎない。どのチームもここから浮上するポテンシャルはありそうで、行方を占うにはいかんせん早計だ。