自動昇格、プレイオフ、残留/降格。ウェンブリーをかけた戦い。すべての出来事が同時進行、過去類を見ないEFLの1週間!怒涛の5月初週を振り返る。
今週のEFLアイキャッチ
チャンピオンシップ
3位リーズとは3ポイント差ながら得失点では不利、ともすれば緊迫感のある状況にも陥りかねなかった最終節。しかし結果的には27分に先制しその後は文字通りのウイニングラン、一片の疑念すらも生じさせず、イプスウィッチが実にリーグ12年ぶりとなる3部からの連続昇格を勝ち取った!
今シーズン、彼らの歩んだ道のりをフォローすることができたのは、私自身発信者としてのやり甲斐・悦びに他ならなかった。「昇格組」という画一的な肩書きを徐々に人々の心から取り除き、実のところ昨シーズンから既に示してきていたリーグでも随一のレベルのフットボールをついぞ46試合貫き通してみせた、そんな彼らの姿は現代フットボール界における一種の清涼剤と言っていい。
キーラン・マッケンナは人々に昨今忘れられがちな監督の唯一無二の役割を思い出させた。それは選手を育てること。誰もが夏と冬に補強の噂を騒ぎ立て、お金で成功を買うのが当たり前となった時代に、イプスウィッチはその真逆のアプローチを取ってこの栄光を掴んでみせたのだ。
クラブ年間最優秀選手賞を受賞したキャプテンのサム・モージーはその最たる例と言っていい。かつては長い間ポール・クックの下でプレイし、そのハードタックラーぶりに代表される守備面での貢献で30歳までキャリアを過ごした選手が、今や攻撃面の起点にもなれるより完成された6番としてこのイプスウィッチの中心に君臨していた。今やイングランド全体でも屈指のLBになったと言って差し支えないリーグアシスト王のリーフ・デイヴィスもそう、共に13ゴールでチーム得点王のコナー・チャップリンとネイサン・ブロードヘッドもそう。ヴァツラフ・フラドキーも、キャメロン・バージェスも、マッシモ・ルオンゴも、ウェズ・バーンズも、ジョージ・ハーストも、みんなそう。このイプスウィッチのチームは、マッケンナの門を叩くまで2部レベルですらその実力を証明できていなかった選手たちばかりで構成されている。
その中で昨季後半にはあまりにも圧倒的な支配力を誇示し、相手が変わりある程度トランジションに重きを置いた戦いへのシフトを強いられた今シーズンもそれにすぐさま対応し、結果的には98ポイント→96ポイントでの連続昇格を果たしてみせた。オマーリ・ハッチンソンやキーファー・ムーアといった優れたローニーの補強こそあったといえ、近年のスタンダードから見ればほぼタダ同然と言っていい補強でこれだけの結果を掴んだという意味では、まさしく前例のない快挙を成し遂げたと手放しで称賛してもいいだろう。
これから先、数々の試練がマッケンナやクラブに投げかけられることは言うまでもない。しかし彼らなら、この未知の世界へと踏み出した集団ならば、それさえもきっと乗り越えてくれるという期待を抱かせてくれる。あまりにも妥当で、あまりにも喜ばしい昇格劇に、今はただ拍手を贈るばかりだ。
そのイプスウィッチに敗れたハダースフィールドは(もう実質決まっていたようなものだが)これでチャンピオンシップからの降格が決まった。新オーナーの就任後初のフルシーズン、その重要な最初の夏を主導する立場で過ごしたニール・ウォーノックが9月に辞任し、まったくもって振り出しからの再スタートを強いられたところからケチはつけ始めていたのだろう。
その後就任したダレン・ムーアにも冬にはケヴィン・ネイグルオーナーがSNS上で直接戦術批判を浴びせるなど、クラブとしての一貫性のなさばかりがクローズアップされたその後のシーズン。それと同時にチーム内の雰囲気も外から目に見えてわかるほどに悪化していき、この最終戦でも前半での交代を余儀なくされたジャック・ルドーニに対してファンは(おそらく移籍前最後の試合になるであろう)彼の途中交代を喜ぶようなリアクションを見せていた。エース格の選手に対してファンがスケープゴート的な怒りを向けるのはチーム状態が芳しくないことの何よりの証拠だ。降格後にはシーズン3人目の監督アンドレ・ブライテンライターの解任も発表され、ほぼ更地に近い状態でLeague Oneへと向かう。
そして問題となったのがこのハダースフィールドと肩を並べて3部へと向かうもう1つの降格チーム。50ポイントのブラックバーンとシェフィールド・ウェンズデイ、48ポイントのプリマス、そして47ポイントの22位バーミンガムと4チームに可能性が残る状況で最終節を迎えていた。
なんともはや、4チーム全てが勝利。試合前には「勝てばほぼ残留できる」と考えていたはずのバーミンガムの選手・コーチ陣にとって、先制した後も沈み込んでしまっていたホームファンの雰囲気は絶望的なものだったことだろう。結局順位は変わらず、22位の彼らがLeague One降格の憂き目を見ることになった。
このバーミンガムについては近日中に某所でたっぷりとシーズンの歩みを振り返る記事を出すことになっているので、ここでは他の3チームについて触れておきたい。
押しも押されもせぬリーグ得点王サム・シュモディクスの持ち味全開の2ゴール、とりわけもはやシュートを打つ前の段階から両手を上げてセレブレーションを始める異様な瞬間を作り出した2点目が多くの人々の記憶に残る瞬間となり、ブラックバーンはジョン・ユースティスの下でバーミンガムを蹴り落とした。4試合の中では最後まで得点が動かず、失点すれば降格は決定的という状況まで一時は追い込まれた中で、シュモディクスも去ることながら2週間前の汚名返上となる好セーブを見せたエインズリー・ペアーズなど守備陣が最後に踏ん張りを見せたのも見逃せない。とはいえ結局このシーズンを象徴するかのようなシュモディクスのヒロイックによる残留劇、その彼の去就が不透明な状況の中では、夏に向けてまずは明確な方向性を示すことが不可欠だ。
先週残留を決めたマルティ・シフエンテスのQPRとともに、もう今や誰の関心からも逃れられない今シーズンの主役の1人となったダニー・ルールのシェフィールド・ウェンズデイ。何度でも書いておきたいことだが、ウェンズデイは開幕11試合でわずか3ポイント、既に残留圏からは7ポイントも離されていたチームだった。細部を突き詰めれば結果の波こそあったとはいえ、この彼の戦術スタイルにすら特にそぐうわけでもないチームを任された監督初挑戦での途中就任で、基本的にはチームの調子を押し上げ続けての20位フィニッシュ。当然イングランドフットボール界で最も注目される監督の1人になったと言っても過言ではなく、だからこそ既に始まっていると伝えられるオーナーデフォン・チャンシリとの来季に向けた話し合いにウェンズデイの全てがかかっている。この日の対戦相手サンダランドをはじめとして、彼の動向を目ざとく追っているチームは決して少なくない。
スティーヴン・シューマッカーの引き抜かれ、そしてその直後の思慮に欠けた後任人事によって一気に泥沼へと足を突っ込んでしまった昨季L1王者プリマスの後半戦。結果的にはそのイアン・フォスター就任人事を主導したと伝えられるDoFニール・デュースニップが自ら責任を取る形でダグアウトに座り、最後のホーム2戦レスターとハルという上位チーム相手に連勝を飾ったことで残留を果たした。もちろんハルのPO争いの相手ウェストブロムが早々にリードし彼らからモチベーションを奪ったという幸運もあったにせよ、キャプテンのジョー・エドワーズがゴールのみならず最終盤には大きなブロックもかますなどチーム全体の高い士気が伺えた内容だった。この夏に向けてはやはりエースのモーガン・ウィテカーの退団が予想され、その売却益の使い道に注目が集まる。
こうしてプレイオフ進出も含めレギュラーシーズンの全ての結果が出そろった。残るはプレミアリーグ行き最後の1枠をかけた戦いだ。
3位リーズと6位ノリッジ。結局最後のサウサンプトン戦にも敗れほぼ最悪と言っていいフォームでPOに進んできたリーズにとって、アウェイで迎えるファーストレグはむしろ良い気分転換のチャンスになる可能性もある。今いる選手たちや監督とはまったく関係のない「過去プレイオフで優勝経験なし」などというデータに囚われる必要性は1つとしてないが、そんなこと以上に気になるのは純粋な最近の成績、そしてダニエル・ファルケにとって初のプレイオフとなる点だ。そのファルケの下で2度リーグ優勝を掴んだノリッジを率いるのはデイヴィッド・ヴァグナー、謂わずと知れた2017年のPOウィナーだが、こちらも決して誇れるような調子で過ごしてきたシーズンではない。ただリーズとの対戦という意味では取るべき戦術ははっきりしており、前がかりにならずとも得点を奪うための選手たちには自信を持つ。勝敗はまったく読めない。
4位サウサンプトンと5位ウェストブロム。こちらもプレイオフは初挑戦、ラッセル・マーティンが遂に自身の経験幅をポストシーズンの舞台にまで広げる。シーズン終盤は過密日程に苦しんでの大失速も、最終戦のリーズ戦ではなんと3-5-2への大胆なシステム変更を行ってアウェイでの快勝を掴んでみせた。あるいはこれは対角に立つゲームマスターカルロス・コルベランへの牽制の意味合いも含んでいたのだろうか。ウェストブロムもよもや最終戦まで進出がズレこむ形にはなったが、彼らの最大の強みと言えばコルベランの下での変幻自在さ、言い換えれば相手の強みに応じて自らの戦い方を調整できる幅の広さだ。まさにプレイオフの舞台でこそ輝くそんな特性は、サウサンプトンのような形がはっきりしているチーム相手であればより優位に立てるものでもある。
過去あまり記憶のない「4チーム全てに勢いのない」特異なプレイオフキャンペーン。それでもこの中の誰かが勝者となり、プレミアリーグへの昇格を掴む。ステップアップを果たすのはいったいどのチームだろうか。
何週間か後にはシーズン前の予想と照らし合わせる形で総評を書こうと思うが、まずはシーズン最終戦ということで、いくつかのビーチ便りも書き残しておこう。
ハダースフィールド以外のボトム8が全勝という際立った最終節、その中でもとびきりのインパクトはロザラムの5-2快勝!スティーヴ・エヴァンズがファンに期待を与える復帰後初勝利、そして数々の好パフォーマンスと最後の1週間での素晴らしいジェスチャーに彩られたヴィクトル・ヨハンソンとの感動的な別れ際に。
最後は5連勝で締めくくったミルウォール、対戦相手のスウォンジーまで抜き去ってまさかの13位フィニッシュ。ニール・ハリスはリビングレジェンドの座を手に入れたか?
3月以降の成績ではリーグトップだったミドルズブラ。残留すら怪しくなるほどの本領を発揮し始めたエマヌエル・ラテ・ラトをはじめ、プリマス時代と合算すれば10-10達成のフィン・アザーズなどいつの間にか役者揃いにもなってのストロングフィニッシュ。夏の上積み次第で自動昇格候補の最右翼浮上もあるかも。
League One
チャンピオンシップが最終節だったかと思えばL1とL2は既にPO準決勝が終了。3位ボルトンと5位オックスフォードがウェンブリー行きを決めた。
イアン・エヴァットが進化を続ける監督としての深みをプレイオフの舞台で改めて示し、ボルトンが2戦合計5-4という派手なスコアでウェンブリーへの切符を掴んだバーンズリーとの対戦。結果的には極めて順当な帰結を見ることになったが、そのプロセスはかなり波乱含みのものだった。
パス成功数は170本、今シーズンずば抜けてワーストの数字を記録した第1戦。それこそがボルトンがバーンズリー相手に取った奇策だった。あれほどまでにこだわってきたポゼッションを大胆に捨て去り、不安定さが実体となって表れているようなバーンズリーの最終ラインへシンプルにボールを送り込むことだけにフォーカスしたことで、アウェイでの初戦を1-3で完勝。それに比べればやや目的意識がブレてしまった感のあった第2戦では反攻を許し、特に予兆もなかったところから3失点を喫してしまったその姿もまた今シーズンの彼らを象徴するような90分間ではあったものの、なんとか仕事は果たし切ってみせた。
一転してこちらの合計スコアは2-1、180分間を通してその守備で勝ち切ってみせたオックスフォードの下克上。ピッチの両極で極端な二面性を見せるデズ・バッキンガムのフットボールが、エフロン・メイソン・クラーク、クワメ・ポクらを擁するピーターバラの凄まじい前線を抑えきってみせた。実際のところセカンドレグの後半などはポッシュにとってみれば不運でしかないような内容ではあったが、後半はわずかシュート1本という中でしのぎ切った姿は大本命ボルトンとの対戦を考えた場合にも間違いなく考慮に入れなければならない。
決勝は5月18日、好ゲームが期待される。
League Two
2戦合計8-1。なぜEFLがExtended Highlight枠をこの2試合に用意していないのかまったくもって不明なクロウリー・タウンの圧倒劇に、文字通りイングランドのフットボール界全体が震撼した。
先週も紹介したGoals Prevented 17.9という異次元値を誇るGKコーリー・アッダイがもはやライトバックとしてプレイし、とてつもないリスクを背負って一心不乱にビルドアップに励むその姿に、クロウリー初見の人々は驚愕したはずだ。もちろんそれだけではない。そのリスクにはそれと同等のリワードもあった。自信に満ち溢れた選手たちが機械的にポジションを取り続け、ボールを前進させての見事な攻撃。セットプレイもあったとはいえファーストレグで3-0、そしてセカンドレグはそれにも増してのアウェイでの1-5。この夢のようなパフォーマンスを作り出したスコット・リンジーには、マスタークラスという言葉ですら到底物足りないほどの称賛が浴びせられる必要がある。
試合直後には数々のEFLエキスパートからこの偉業の凄まじさを伝える気持ちが先行した文章が届けられていた。私もその1人だ。きっと試合を見ていない人には伝わらないのだろうが、それでもそれを伝えたいという純粋な欲求が挑戦心を掻き立てた。
何が凄いかと言えば、このL2どころかEFLのプレイオフ史上でも稀にみる2戦通しての圧倒度はもちろんとして、そのパフォーマンスをシーズン前には最下位候補筆頭と目されたチームから引き出していることだ。クロウリーは決して経営的にも褒められた経緯を辿ってきたクラブではなく、選手のこれまでの経歴も含めて、順調度で言えばリーグの下から数えた方が圧倒的に早いチームだ。その上でのこれ。いい意味で常軌を逸しているとしか言いようがない。
そのクロウリーとウェンブリーの舞台で顔を合わせるのは、こちらも予想外のクルーとなった。こちらはファーストレグ、セカンドレグ共に現地観戦し、その感想を既にインスタにも書いている(第1戦、第2戦)ので詳細は割愛するが、こちらもフットボールの怖さ、そしてプレイオフの怖さを凝縮したような2試合になった。
L1決勝の翌日、クロウリーとクルーが対戦するL2の決勝戦。現地観戦できないことがあまりにも悔やまれるが、一ファンとして心待ちにするほかない対戦カードとなった。