私が初めてフットボールを見たのはもはや記憶も朧げな3歳か4歳の頃だった気がする。もちろん能動的に見たわけではなく、スタジアムに直接足を運んだわけでもない。たまたま埼玉県で生まれ育った関係でTVでも頻繁に中継が行われている環境が身近にあり、それでなんとなく見ていたような断片的な記憶がある。
それをもってフットボールファン歴を数える図々しさは生憎持ち合わせていないので、「フットボールを意識的に、好きで見るようになった」時期のことの方が明確に覚えている。それは小学校高学年の頃、周りの会話の話題に上っていたことで興味を持って見始めたプレミアリーグで、「あるチーム」(久しぶりにこう書いた!)の試合に出会ってからのことだ。フットボールそのものというよりは今まで自分が見たことも経験したこともない、スタンドに広がるまったく異次元の光景に目を奪われて、本能的にその文化の部分に惹き込まれていった。
それから今に至るまで、もうとっくに10年を越える月日が経ったというのに、飽きるどころかより入れあげてそのスタンドのレギュラーになるほどに今でもフットボールを見続けている。別に誰かに言われたからではない。誰かに言いたいわけでもない。世のためでも人のためでもなんでもなく、ただ自分が好きだからそのライフスタイルを続けている。ピッチの中で起きる非日常が好きで、日々様々な気付きや学びの機会、貴重な経験の触媒を果たしてくれるフットボールが好きだ。自分の人生をより豊かに、より意義のあるものとして過ごしたいと思っているからこそ、いろんなものを与えてくれるフットボールと付き合い続けている。
人それぞれにフットボールに魅せられた理由がある。例えばプレイ経験が私よりも豊富な人であれば、またまったく異なる見方があると思う。フットボールを見るという行為が本来人間の日常生活にはまったく必要のないものだからこそ、そこに至るまでのそれぞれのストーリーがある。しかしその根源の部分には、おそらく、万人に共通する「純粋な気持ち」があったに違いない。
時として私は、フットボールを見ている人々がそれを忘れてしまっているのではないかと心配に、また不憫に思う時がある。ネガティブな感情全般と言いたいわけではない。「不必要な」ネガティブが表出している場合である。
2月14日、EFLとPUMAは2月のLGBTヒストリー月間に合わせて、向こう2週間に行われる試合で虹色のボールを用いることを発表した。フットボールを通じて問題への関心を啓発するために実施された史上初めての試みで、取り組み自体大きな話題を集めたことは記憶に新しい。
ソーシャルメディアのコメント欄など今や本来見るべきではない場所だというのは承知の上で、このアナウンスメント時のTwitter及びFacebookのEFLによる投稿を参考までに紹介しておく。
https://twitter.com/EFL/status/1757736725764346163
(また追加の参考として、こういったEFL主導の取り組みに関しては各72クラブのソーシャルメディアアカウントからも同内容の投稿が発信されるが、そのコメント欄ではよりローカルな単位での反応が見れる。その方向性は言うまでもない)
そもそも当たり前の前提として、こういった取り組み、ましてソーシャルメディア上でのアナウンスメントなどに対して「わざわざ」一言物申しに来るような人には明らかに欠落している部分があるので、いつも書いていることだがそういった声がマジョリティではないことは必ず意識に留めておかなければいけない。最初の段階で「見に行く方が悪い」のは完全にその通りだ。しかし私に言わせれば、なぜこういった取り組みに対して難癖をつける余地を思考の中に持てるのか、それ自体が不思議でたまらない。
これはVARがフットボールの本質を破壊するとかそういった話とはまったくもって次元が違う。フットボールのプレイ、即ちゲームそのものの中に介在しようと試みるVARが正しくも議論を巻き起こすのはわかるが、「フットボールに使うボールの色を変える」ことは人々が最大のマターとみなすゲーム性自体には何の関係もない。何色のボールでプレイしようがフットボールはフットボールだ。
その至極当然の前提を確認した瞬間に、「ボールの色が虹色になることにクレームをつける」行為を「虹色という概念そのものへの批判」と受け止める以外の選択肢がなくなる。別に深く考えなくても、「LGBTQ+への理解を啓発する」ことが「政治」とノットイコールなのは自明の理だ。どこをどう切り取っても「政治利用」になるロジックが説明できない。それをなぜか「フットボールを政治(主張)の場に使うな」ともっともらしい慣用句に繋げる人がいるが、単純に論理展開として破綻している。
こういった人々はなぜそんな主張を繰り広げるのだろうか。より重要な点として、その主張は彼らが「よりフットボールを楽しむため」になされているのだろうか。そうだとすれば(理屈はまったくわからないにしても)まだ百歩譲って行動原理には理解を示せるのだが、どうにも私にはそうではない気がしてならない。そんな純粋な気持ちの発露ではなく、変化し本来あるべき姿に近付こうとする時代の流れに何がしかの理由で抗おうとする「主張」の道具としてフットボールを使っているようにしか見えないのだ。
様々な人が様々な理由で好きになったフットボールだが、それがいかに多種多様であったとしても、そこには大まかな傾向・方向性が存在している。そしてその方向性のほとんどに共通することとして、「フットボール界で様々な性自認を持つ人への理解が広がる」ことで損なわれるような類の事柄に魅せられてフットボールを好きになったわけではない、ということが言えると思う。誰かのプレイに魅了されて好きになった人、友だちの誰かに誘われてそこから好きになった人、どんな場合であってもセクシャルマイノリティへの理解が乏しいかどうかには一切関係ない。
ならばどう考えても、人々が当然持つべき人権意識の延長線上として、そういった人々への理解はあった方がいいに決まっている。人種差別の問題だってそう、女性の参加に関してもそう。そこに対して謎の理由でケチをつけるのはその人の中に潜む邪悪かつ未熟な意識をこれ幸いとフットボールを使って奇妙にも発表しているだけに過ぎない。
フットボールが好きだからこそ、そんな自分とは相容れない姿勢が目に付く。自分の好きなものを穢されているような気持ちになる。もちろん最初から何事にも意識を配れというのは些か酷な要望かもしれないが、フットボール、とりわけイングランドでの取り組みを見ていればいくらでもその気付きの機会がある。まさしくそれが今回のような活動の意義であって、スポーツの存在意義なのだ。「変えなくてもいいボールの色を変える」からこそ、人々の関心がそのバックグラウンドに集まる。少しでも向上心を持ってより善く生きようとしている人にはそれがわかる。それを理解できず声だけ大きい人が悪目立ちする。
以前から書いてきていることだが、フットボールという無防備な場は、社会学のような学問にとっての格好の研究のテーマになる。俗っぽい言い方をすれば、それが「人の本性」を暴き出すからだ。
人がどのようにフットボールを捉え付き合っていようが、それが犯罪行為でもない限り、他人に口を出す権利はない。しかし「正しい楽しみ方」と「間違った楽しみ方」、あるいは「楽しんですらいない見方」というものは必ず存在している。その先にはソーシャルメディアのフォロワー数などといった薄っぺらいことこの上ない指標よりもずっと奥深い、大切な出会いや気付きがきっとある。
時として我々には立ち止まって考える時間が必要だ。振り返ったすぐそこに、いつのまにか落としてしまったものがあるかもしれないのだから。
今週のEFLアイキャッチ
チャンピオンシップ:第38週目に迎える新しいリーグのリーダーズ、リーズの快進撃止まらず
League One:首位争いW直接対決、地場固めのHuge Results
League Two:スタッグパーティー5月の大団円へ?
チャンピオンシップ
今シーズン最後の代表ウィーク休みを前に、一つの大きな山が動いた。日曜15時という珍しい時間設定の一戦、今年に入っての13試合目での12勝目。今節FAカップのために試合のなかったレスターが未だPPGでは上回る状況ながら、リーズが今季初めて、チャンピオンシップの首位に立ってみせた!
今から2ヶ月半前、元日の段階で両チームの間には実に17ポイントもの差が開いていた。当然一因にはレスターの勝ち点獲得ペースの鈍化があるにしても、2024年ここまでの中でリーズが辿ってきた道のりはワイルドという他にない。
先に書いた通りリーグ戦13試合を戦っての成績は12勝1分。28得点3失点の額面だけでも圧倒的なのに、その3失点はいずれもセットプレイからのものという信じ難い内実まである。つまり昨年最後の試合だったウェストブロム戦で37分に喫した失点以来、なんと1223分間もの間オープンプレイからの失点を許していないのだ。
さらにホームでの成績も圧倒的だ。ここまで19試合で15勝4分、EFL唯一のホーム無敗なのは語るに及ばず、こちらもより注目すべきはそのディテール。実は開幕からのホーム3試合で彼らは3連続ドローを喫しており、そこからの16試合では15勝1分(12月のコヴェントリー戦で1-1)の成績を残している。こういった結果、また内容に目を向けてみても、この重要な時期に向けて右肩上がりで調子を上げてきている点が見逃せない。
当然その点ではウィリー・ニョントやパトリック・バンフォードといったシーズン途中でステップアップを果たした選手たちの存在を避けて通ることはできず、今週も割り切った戦い方を仕掛けてきたミルウォール相手にチームが若干手こずった中で、均衡を破ったのはニョントのmoment of qualityだった。そしてもう活躍が恒例になっているせいでなかなか触れられていなかったが、この試合2アシストのジョルジニオ・ルターがとにかく群を抜いている。フィニッシュを除く全ての面で「今すぐビッグ6のクラブに行ったとしても通用するのではないか」と思わせるほどの総合力を維持し、その上で開幕戦の欠場以降全試合に出場し続けているタフさもある。近年のチャンピオンシップで輝きを放ってきた名だたるアタッカー陣と見比べても、純粋なパフォーマンスレベルでは何ら見劣りしない。
まだまだ厄介な相手の名前が見える残り8試合の日程は当然プラス材料にはなり得ないが、それは(単に1試合多く消化する必要もある)レスターもイプスウィッチも同じだし、ことサウサンプトンに至っては代表ウィーク含め3週間空いた後での30日間で8試合という4強の中では最も不利なランインが待ち受ける。こういった精神面も考えた場合に、この試合でしっかりと2点目を取って首位に立ち切った意味は大きい。その強靭なキャラクターを示したのと同時に、この代表ウィークを首位で過ごすことによってライバルたちに与えるプレッシャーも決して馬鹿にはできないように思う。
もっとも、そのリーズの勝利によって今週試合(リーグ戦)のなかったレスターとサウサンプトンにかかる重圧と、この前日の土曜に6-0で勝ったイプスウィッチにかかるそれとでは当然わけは違う。前節カーディフ戦、90+6, 90+10に許した2ゴールでの逆転負けというショッキングな結果を受けてのスーパーバウンスバック、「精神面」の話をするなら彼らだって黙っていない。これがイプスウィッチの真骨頂だ。
もちろんこの試合に関して言えば、どうも格上相手と見るや途端に保守的になる傾向のあるダニー・ルールのシェフィールド・ウェンズデイが中盤と最終ラインの間に広大なスペースを空けていたことが最大のポイントではあった。しかしそれにしても機械的に「パターン」を繰り返した上での6ゴールにはどうしたってケチをつけることはできず、このシーズン終盤に及んでもなおも盛んな攻撃陣には称賛が贈られて然るべきだ。
とりわけこの日目立っていたのは、コナー・チャップリンの負傷に伴って10番の位置に入ったオマーリ・ハッチンソンだった。本能的なものなのかどうしても右サイドからの仕掛けが目立ったが、自身初のポジションでプロの世界では自身初となる1試合2ゴール。慣れない役割を任された中自信たっぷりのプレイでチームの求めに応えてみせて、ここまでの8ヶ月間で歩んできた成長の証を見事に示した。こんなものを見せられれば、チェルシーに留まらず各ビッグクラブはこぞってキーラン・マッケンナの下に期待の若手を送り込みたいと思うはずだ。
代表ウィーク明けはブラックバーンとのアウェイゲームを経て、イースターマンデーにサウサンプトン、その次戦にアウェイでのノリッジとのダービーマッチが待つ。自動昇格に向けては明らかに正念場となる4月初頭へ、その状態に不足はない。
その4強の争いから実質的には約10ポイント離れたプレイオフ争い。直近では明らかに数が絞り込まれてきた中で、5位のウェストブロムは一歩抜け出した印象がある。今週末のブリストル・シティ戦では堅い相手をきっちりと崩しての完封勝利、マイキー・ジョンストンとトム・フェローズが陣取るワイドフォワードのエリアに強みが出てきたことが非常に大きく、いざプレイオフ本番でも決して侮れないトータルの力を示し始めた。
そしてPO圏最後のスポットに立つのはなんとノリッジだ。先週のロザラム戦5-0に続いてはストーク相手の3-0勝利、相手の名前を忘れる必要こそあるが、2試合合計8-0で勝っていることは厳然たる事実である。
彼らは依然として極めてユニークな状況にその身を置いている。年明け以降の13試合で8勝3分2敗、またホームではここ11試合で9勝2分の無敗という文句ない成績を残し一気に順位表を駆け上ってきたのにもかかわらず、やはりファンからのデイヴィッド・ヴァグナーに対する風当たりは強いままだ。
そしてそれは妥当な成り行きでもある。この試合で今季3人目(A.アームストロング、デューズベリー=ホールに次ぐ)の10-10クラブ入りとなったガブリエル・サラが活躍すればするほど、「この選手を長い間CBの間まで下がらせてプレイさせていた」としてヴァグナーへの異論が生じる。もちろん中には彼を再評価する声も聞こえてきているし、確かにサラにジョシュ・サージェント、ボルハ・サインツも含めての “3S“ を中心とした強烈な個を活かすという意味では、今ノリッジがやっているような深みのない戦いはむしろ最適手に近いのかもしれない。それを監督の手腕として評価するのは本能的に避けたくはなるが、結果がこうして出ている以上、過度に批判することもまた違う。
しかし1つ確かなこととして、最近各所で聞く「今シーズンの自動昇格/残留争いはかつてなくレベルが高い」という言説があるが、それを「今シーズンのチャンピオンシップはレベルが高い」と言い換えるのは短絡的な発想だと思う。つまり上の勝ち点が伸びていくのはそれだけリーグ内に勝ち点を取りやすいチームが多いからであって、下の争いに関しても同じことが言える。その結果、真ん中に空洞ができる。現状のPO争いの推移はまさにそうとしか言いようがなく、まだまだ多くのチームにチャンスが転がっているように思えてならない。
もっともこれまでがそうであった以上、これからもノリッジがこの調子で走り抜ける可能性も十分にある。そしてこのリーグのプレイオフがこのリーグのプレイオフであるからこそ、彼らが傍目には極めて奇妙な昇格を果たす可能性も十分にある。それもまたEFLの愛すべき側面でしかなく、いずれにしても目を離すことはできない。
その「レベルの高い」残留争いに話を移すと、今週はここ数週間のトレンドからは完全に距離を置く形で、16位ミルウォールから下の9チーム全てが無得点に終わる寂しい週末になってしまった(そもそも10試合あってBTTSが0という異常なマッチウィークだった)。10連敗を辛うじて回避した形の最下位ロザラムだけは別の次元にいるが、そのロザラムに引き分けた22位ハダースフィールドをはじめ、それ以外の各チームにとってはチャンスを逃したという後悔が募ったことだろう。
もう末期症状のように見えるイアン・フォスターがまたも批判の的となった18位プリマスの週末。プレストンの指揮官としてやってきた元監督ライアン・ロウへのブーイングを「ここで優勝した人物(厳密にはこれは誤りだ)なのに奇妙な仕打ちだ」と評し、間接的に自身が現在率いるチームのファンベースを不必要かつ軽率に批判したその行動に、このレベルで求められる監督としての資質が伴っているようには到底感じられない。前任のスティーヴン・シューマッカーが極めて優れたPRセンスを持っていたこととはまさしく対照的で、少なくとも夏以降にフォスターがプリマスに残っている画はまったく想像できなくなってしまった。
そしてバーミンガムである。トニー・モウブレイの病気療養以降、彼の長年のNo.2マーク・ヴィーナスが率いるようになってから6試合で1ポイント。記者会見などでのコメントからも明らかにその職責に参っている様が垣間見えた彼に代わって、最後の8試合ではギャリー・ラウエットが暫定指揮を執ることになった。もちろん個人的にはありとあらゆる種類の情感が伴う動きなのでこれについて書くのは場を改めるが、なんともはや、とんでもないシーズンにこちらに来てしまったものだ。
最後にこの試合についても触れないわけにはいかない。ウォルヴズを相手に支配に次ぐ支配を重ねての最終的なxGは驚異の4.50(!)。それでも一度は悲劇的ですらあった逆転を許した中で、2人のエースが果たした土壇場でのステップアップ!なんとも誇らしい2年連続でのEFL勢による準決勝進出、したり顔で近年のFAカップについて嘆く人々へコヴェントリーが身をもって示した “The beautiful game“ の神髄は、同時にマーク・ロビンズが現在進行形で続ける伝説的な偉業の新たな1ページとなった。
準決勝で対戦するのは他でもない彼の古巣マンチェスター・ユナイテッド。かつて「ファーギーを救った男」として全世界にその存在を知られたロビンズが、今度は「コヴェントリーの歴史を再建した男」として再びその名を馳せようとしている。
League One
4位vs1位、2位vs3位。紛れもなく今シーズンのLeague One最大の1日、なんとも運命的なことに時刻までほぼ同じくして、勝負の女神は自動昇格圏にいた2チームに微笑んだ。
5連勝で臨んだホームのピーターバラがまずは攻勢に出たロンドン・ロードの一戦。しかし度重なる左サイドからの崩しを得点に変換することができず、なんとも皮肉なことに77分、失点のきっかけとなったのもその左サイドでのボールロスト。首位ポーツマスの持ち味が凝縮されたカウンターを締めくくったのは、それまでもほぼ全てのチャンスに顔を出していた1トップのクシニ・イェンギだった。
ミッドウィークのバートン戦では前半に2ヤードからのオープンゴールでのシュートを外すショッキングなミスがありながら、その後に得たPKを自ら蹴るばかりでなくパネンカで沈める驚愕の強心臓ぶりを見せつけ2ゴールを挙げた彼にとって、この上位対決での重圧など取るに足らないものだったに違いない。イェンギよろしくポーツマスはここまでの現トップ8のチームとの直接対決10試合で7勝3分の無敗。まだ2,3,5位との対決は残す状況とはいえ、この直接対決の強さをもってすれば、それを不安要素に挙げることすら憚られる。
試合後にポール・ワーンから寄せられたGKジョー・ワイルドスミスへの激賞が全てを物語ったプライド・パークでの90分間。3位ボルトンの猛攻は再三再四に渡ってゴールライン目前で防がれ、2位ダービーの3ポイントを決定づけたのは78分のコーナーキック。自動昇格圏を跨ぐ両チームの差は4ポイントに広がった。
シーズン中盤あたりまでは決して順風満帆とは言えない雰囲気の中での戦いを強いられてきたダービーだが、昨年11月以降の24試合でわずか4敗。とりわけここ10試合で挙げた7勝のうち6つが完封と、ワーンのチームらしいソリッドさが前面に押し出されてきた。チームとしての完成度は確かながら「泥臭く勝つ」能力に疑問符の付くボルトンにこうして勝ったことはなんとも象徴的で、悲願のチャンピオンシップ復帰がより一層現実味を帯びてきたと見ていい。
上4つを追う5位バーンズリーはチェルトナムとゴールレスドロー(なんと今季全公式戦で初めて!)を演じ、直上チームの停滞に付け込めず。これで2位と3位以下の間に1試合分以上のギャップが開いたことになり、残り7試合の自動昇格争いにははっきりとした構図が出来上がった。
しかし今のL1には、純粋な注目度という意味合いでこのエキサイティングな争いをも軽く凌駕するチームがいる。ここ13試合無敗、近10試合で8勝2分。そしてその長期的なフォーム以上に、ここ3試合の合計が驚異の16得点1失点!誰がどう見ても今最も強いチームは、7位に浮上してきたリンカーンだ。
自動昇格争い中のバーンズリー、残留争い中のケンブリッジ、そして今週はちょうど中間にいるブリストル・ローヴァーズとそれぞれ異なる立ち位置のチームと相対しての5-1, 6-0, 5-0の3連勝。決して相手に恵まれたというわけではないからこそ、どんな相手にも自らの型を崩さずに圧勝を重ねたその価値が一際輝く。13試合無敗のうちポゼッションで相手を上回ったのはわずか2試合だけ、それもどちらも残留争い中の相手(フリートウッドとケンブリッジ)よりわずかに多く持っただけで、基本的には受けて入る形で懐刀を突き刺すのが彼らのパターンだ。
実はボクシングデイの前にリンカーンの試合(ダービー戦)は生で見たことがあり、その時の感想はインスタにも書いた通りで、やや選手が自信を失っている印象を受けていた。マイクル・スクバラが就任したのが11月のこと、前任のマーク・ケネディも決して解任が妥当と言えるような成績は残していた中で、内部メトリクスを用いた評価なども理由に「スタイルの変化」を求められた彼に課されたタスクは決して簡単なものではなかった。その中でスクバラはまず前任者の遺産たる守備の強みを継続させるところから入り、その中でより効果的かつ効率的な攻撃の形を模索するアプローチを取ったようだ。
直近でこれだけ点を取っているチームに対してこう言うのも少し奇妙な話だが、やはり今も彼らの基本は守備の部分にあるように思う。ただその中でファイナルサードでのランナーの数であったり、その走り込みに対して躊躇なく縦につけられる相互理解、決まりごとの徹底といった部分で、私が見た12月の頃とは雲泥の自信が選手たちから垣間見える。これはひとえにスクバラの見事なコーチングによるものであろうし、その中で1月にこのクラブお得意のアイルランドルートでやってきた中盤のジャック・モイランや同じく1月にルートンからローンでやってきた前線のジョー・テイラーといった新戦力の非常に大きな貢献もまた見逃せない。
総じて今のリンカーンの歯車の噛み合いっぷりには目を見張る部分があり、またそれは持続可能なものにも見える。最終のポーツマスを除けばほぼ自分たちよりも下の順位の相手が続く残り7試合、直接対決を控える6位オックスフォードとの2ポイント差はあってないようなもので、上の争いから3つが落ちてくるPOピクチャーの中に入ってもまったく侮ることはできない現状だ。
下位勢では残り8試合で安全圏と16ポイントの差がある最下位カーライルの降格はもはや決定的。またフォームテーブルではそのカーライルすらも下回る23位ポート・ヴェイルも内容にまったく見どころがなく、こちらもいくらダレン・ムーアの指揮下といえどもここからの転調を期待するのは難しいだろう。
問題はその上で、他より消化試合数が多い22位フリートウッドはここ6試合無敗。もちろん1勝5分ではあるのだが、今週はネイサン・ジョーンズ効果真っ盛りで絶好調のチャールトンに追い付いての価値ある1ポイントで、顕著な守備の良化と残り日程の楽さでまだ十分にチャンスが見込める。その上にいるのは一時期ほどの勢いは失ってしまった21位チェルトナムだが、こちらは消化試合数で有利な上に今週は前述の通りあのケイオスマーチャントバーンズリーを完封。パフォーマンス基準自体には落ち込みは見られず、まだ見限るには早い。
そして安全圏の崖っぷちにいる2チームの調子は決して良くない。ミッドウィークにリンカーン相手に6失点を喫した20位ケンブリッジは週末にもレディングに4失点を献上し、ギャリー・モンクの船出は極めて厳しいものとなった。さらにある程度難敵との対戦も続いた中とはいえ19位バートンはここ6試合で1ポイント、その間2得点。はたまた何とも御し難いことにここにレディングがさらなる勝ち点剥奪で加わってくる可能性もあり、今年もL1の残留争いは常軌を逸した争いになりそうだ。
League Two
上位陣総苦戦の前節からの流れは続いて、2位ストックポートと3位レクサムがまたも勝ち点を落とした週末。その中で順位表のトップだけは例に漏れる完勝劇、首位マンスフィールドの「スタッグパーティー」にアウェイエンドをご招待!
相も変わらずのスタッツリーダー総なめ状態が続く3月下旬、もちろん時たま見せるオフデイのパフォーマンスはご愛嬌だとしても、総合的な波の少なさという面でいえば今シーズンのL2の中では群を抜いている。ここまでリーグでは6敗を喫する中でも連敗は1つとしてなく、レアケースとも言うべき負けの後では必ずバウンスバックを示してきた。
決して調子が悪いわけではなかったブラッドフォードに乗り込んだアウェイ戦での前半4ゴール。ハイライトをご覧いただければわかるようにピッチコンディションも最悪に近かった中で、それをものともしない攻撃の幅を証明する結果にもなった。まだレクサムやMKドンズとのアウェイゲームを残す中ではあるが、ここからの急失速というのはやはり考えづらい。
2位ストックポートはマンデーナイトの試合で終盤クロウリーに追い付かれてのドロー。5戦無敗と言えば聞こえはいいがその内実は1勝4分で、攻撃時のパターンの少なさにも大きな心配が残る。さらにレクサムは頼みの綱とも言えるホームでトランメアに0-1負け。トランメアはこれでマンスフィールドとレクサムに連勝、ナイジェル・アトキンスの就任後はリーグ3位相当の成績と確かに侮れないチームではあるのだが、レクサムにとっては2月まで実に52試合もの間記録していなかったホームでの被完封がこの2ヶ月だけで3回目。前線での迫力のなさが顕著だ。
となればそこに迫ってくるのは「第4極」。戦前の4位クルーとの直接対決を制して(1試合消化は多いながら)レクサムと同ポイントの4位に上がってきたのがMKドンズだ。
今年に入ってからに限っても既にアウェイチームの身でマンスフィールドとストックポートを破った実績を持つ上位対決の鬼クルーを迎えて、MKがホームで見せた戦いぶりは強いの一言に集約される。1点目の「らしい」パターンでの崩しに続いては、2,3点目はシンプルなフィジカルプレゼンスも活かしてのロングボールからの得点。こちらも攻撃の方法論に引き続き幅が増しており、それをこの大一番でしっかりと活かすことができているのが素晴らしい。
上3チームと比べればいずれに対しても消化試合数でのディスアドバンテージがあるとはいえ、裏を返せば少なくとも自分たちの試合については日程的な余裕があるということでもある。まず次戦ではストックポートとのアウェイゲーム、さらに4月中旬にマンスフィールドとのホームゲームを残しており、あるいはてっぺんまで見据えての残り7試合だ。
残留争いでは極めて重要な6ポインターがあった。新監督効果かここに来ての連勝を果たし、今節前の段階で22位に上がっていたフォレストグリーンのホームゲーム。このタイミングで迎えた相手は最下位のサットン、11月以来ボトム2を独占してきた両チームの顔合わせで、一縷の望みを繋ぐ3ポイントを持ち帰ったのはアウェイチームの方だった。
全体として見どころに欠ける内容だった90分間、とりわけFGRは37分に失点して以降も結局シュートすら2本しか放てず、追い付く気配は皆無と言っていいアイデアのなさを見せてしまった。1週間前のウォルソール戦ではPO争い中の相手にシュート5本で2ゴール、その後ミッドウィークのブラッドフォード戦ではポゼッション24.3%を記録しながらの勝利と「これぞスティーヴ・コットリル」と言うべき弱者の戦い方で連勝を果たしてきていた中で、サットンのようなチームは本質的にそれとは相容れない相手だったのかもしれない。
もっともこれで23位に逆戻りし、文字通り「自分たちより弱者」なのはサットンだけとなったのも事実ではあるので、残留を見据えればその点は逆にポジティヴと言えるかもしれない。ただ彼らの場合問題になってくるのが残りの日程だ。次にドンカスターと戦った後の5試合がストックポート→クルー→MKドンズ→マンスフィールド→レクサムとなんともはや示し合わせたかのような現トップ5との5連戦。これではいくらなんでも1つか2つ引き分けを拾えれば御の字といったところで、加えて直上にいる22位コルチェスターは自身よりも2試合消化が少ない状況でもある。それだけに何としてでも勝ち点を拾わなければいけなかった最下位相手での痛い敗戦、一気に状況は逆戻りしてしまった。