忘れもしない2016年12月14日のこと。あの日まだ大学生だった私は、友人たちと一緒に都内のカラオケボックスにいた。正確にはもう12月15日になった後のことだったと思う。
当然ある程度のアルコールを既に摂取していた中で、何気なく開いたソーシャルメディアに突如として現れたあまりにも信じ難いニュースに、酔いというよりもまさしく血の気が引いてしまったことを鮮明に記憶している。フットボールにまつわる何かを見た時のそれとはまったく異なり、むしろ災害等の第一報を見たときのようなゾッとする感覚がした。
ギャリー・ラウエットが解任された日の、もう二度と思い出したくもない思い出だ。
この時の内実については以前ブログにアップしたバーミンガムについての記事でも紹介した。ファンが受けたショックとあるいは同等に、この時クラブの内部にいた選手たちにでさえその一報はあまりにも唐突で、あまりにも衝撃的だったという。
(私が見てきた間では最悪の監督だったと今でも思っている)リー・クラークの指揮下でクラブがどん底まで落ちてしまった2014年10月、ラウエットはかつて選手としてもプレイしたバーミンガムに救世主の如く戻ってきた。就任後すぐのホームゲームで当時首位だったワトフォードに勝利、その前のホーム戦ではボーンマスに0-8で敗れていたチームが、彼の就任を境に一気に生まれ変わった。確かに彼の志向するフットボールは堅実そのものではあったが、その時いた選手たち(かなり厳しい予算制限が科されていた)の特性を思えば、それがベストな戦術であることも明らかだった。
「ラウエット革命」は一過性のブームには留まらなかった。その次のシーズンには序盤戦で一時2位に立つなどして比較的終盤までPO争いに加わり、結果的には前年と同じ10位でフィニッシュした(これ以降バーミンガムがそれより上の順位でシーズンを終えたことはない)。そして12月に職を解かれることになるその次のシーズンも、解任時点では7位に付け、十分にプレイオフ進出が狙える位置でシーズンを過ごしていた。
後にわかったこととして、当時ラウエットはリーグ内予算規模最低レベルのバーミンガムを就任後瞬く間にPO争いに近い存在へと変身させた実績を盾に、リーグ内のより有力なクラブへの売り込みを行っていた(実際解任後に彼が赴いた先はダービーだった)。もちろんこの事実自体は芳しいことではないし、それをもって「半ば無理やり」ラウエットとの別れをgood riddanceだと締め括ろうとする無駄なあがきをバーミンガムのファンは長年続けてきた。
しかし何をどう努力しようとも、この時のラウエット解任の判断を「良い決断だった」とすることには無理がある。圧倒的に無理がある。
この後に就任したジャンフランコ・ゾラの時代は思い出すのも苦痛なほどの惨劇だった(多くの人がこの時と今シーズンのルーニーを重ね合わせているが、個人的には段違いで当時の方が絶望していた)。ハリー・レドナップ、スティーヴ・コットリル、ギャリー・モンク(彼はまだいい思い出の方が多い)、ペップ・クロテット(彼も去年会った時にいろいろ苦労話を聞かせてもらったので好印象だ)、アイトール・カランカ、リー・ボウヤー。その後に偶然にも多くの共通点を持つジョン・ユースティス(皮肉なことに去り際まで)がやってくるまで、何人もの監督が大きな期待と共にクラブにやってきて、ラウエットに遠く及ばないパフォーマンスと結果しか残せなかった。
ここにはある程度逆説的な意味合いも含まれているように思う。つまり「あの時ラウエットを無理やり解任するようなボードの下でフットボールクラブが成功する見込みはない」、のである。
あまりにも有名な話だが、ゾラとの交渉の際に当時の中国オーナーグループの上層部は、彼に監督としての適性を問う適切な質問をしなかったばかりか、あろうことかかつて有名選手だった彼との対面に舞い上がりサインを求めていたという。そしてまったく実体も計画もないぼやけた概念でしかないビジョンとして「より魅力的なフットボール」を掲げ、どう考えても当時の選手層では無理があるパスサッカーをゾラに要求した。もう一度監督として戻ってきてほしいとは当然思わないが、この点において私はゾラに一定のシンパシーを抱いている。
2016年10月にクラブを買収したトリリオン・トロフィー・アジア(と銘打った1人の犯罪者 “Mr. King“ の道楽)の下で、このクラブには溢れんばかりのアンプロフェッショナリズムが蔓延した。そしてその残像は、彼ら亡き今も依然としてこのクラブを苦しめ続けている。その最初の犠牲者であり転落の象徴となった人物こそ、他でもないギャリー・ラウエットなのである。
時は流れ2023年7月、クラブは待望の新オーナーグループを迎えた。これまで各媒体で何度も書いてきたことなので詳しく立ち入るのは避けるが、このアメリカ資本の新オーナー “Knighthead“ はまさしく前所有者とは正反対の超プロフェッショナル集団として、バーミンガム・シティの至る部分に革命的な変化を加えている。
その挑戦的な姿勢が失敗を生んだこともある。言うまでもなくウェイン・ルーニーの任命だ。しかしそれにしても背後にはしっかりとしたロジックと狙いがあり、その動きを主導した業界の大ベテランギャリー・クックは自身の失敗を素早く認める形で3ヶ月もせずに成功の見込みに乏しかったルーニーを解任し、しっかりとその反省を活かすトニー・モウブレイという後任人事をまとめた。
そのモウブレイが病に倒れた。これまで述べてきたすべての事柄と比肩し得ないレベルでの不運だった。ここで一ファンとしてまず明言しておきたいのは、今この場面で他のどんなことよりも最優先にされるべきは、トニー・モウブレイの健康面に他ならないということだ。だからラウエットの暫定監督就任が発表された声明で、まず第一にこの決断が「モウブレイの回復を最優先に考えた上でのもの」とされていたことに心の底から安堵した。人一人の生命よりも重要なものなど、世界中のどのフットボールクラブにも存在しない。
その上でモウブレイの休養後彼に代わってチームの指揮を執ってきたアシスタントのマーク・ヴィーナスにはとても辛い時期だったことと想像する。現実的に考えて、モウブレイの休養がどの程度の期間になるかも不透明だった状況下で、指揮を引き継げる存在は彼の長年の右腕であるヴィーナスを差し置いて他にいなかった。しかし現在56歳ながらキャリアを通じて監督を務めた経験のない彼にとって、この地位はまったくもって望まれざるものだったはずだ。監督に向いている人もいれば、アシスタントに向いている人もいる。経験だって重要だ。全員が被害者となったヴィーナスの指揮下で、クラブは再び厳しい立ち位置に追い込まれてしまった。
プロフェッショナリズム溢れるボードだからこそ、この最後の代表ウィークを前に残り8試合を任せるための暫定監督の必要性にしっかりと目を向けた。そしてこの実にユニークな状況に求められる素養を持つ人物が、極めて限られていることにも気が付いていた。
数週間前、レギュラー出演している “Soccer Saturday“ の放送中にトロイ・ディーニーから「暫定監督になった方がいい」という無茶ぶりを受け、なんとその可能性を否定しない言動を取った時に、個人的に「もしかして…」と思ったことを覚えている。ラウエットは計算高い人間だ。突拍子もないことには「突拍子もない」というリアクションを取る人だから、そうしなかったということは可能性があると見ているのかも、という気がした。
就任後のインタビューで、ラウエットは「このクラブでなければこんな話は受けていない」と言い切った。もちろんどこまでが本心かはわからない。それでも、今は彼がそう口にしたという事実だけがあればいい。やはり彼は、ファンの心を動かす術を知っている。
当然突き詰めて実利的に考えても、これは関係する誰しもにとって悪い話ではない。クラブとしては残留に向けて打てる中での最善手を選ぶことができた。ラウエットも残留に成功すればおそらくは多額のボーナスを受け取る契約を結んでいるはずだし、今季初めにミルウォールから解任され「結果は出せるがファンから反発を食らう」というレピュテーションがすっかり定着してしまった中で、今後のキャリアにとっても非常に大きなポジティヴイメージを作ることができるだろう。
今シーズンの残留はクラブにとってとても大きな意味を持つ。本当の勝負に出られるのはP&Sの多額のマイナスが消える今年の夏からで、そこでようやく選手補強にも大金を費やせるようになる。さらについ先日報じられたこととして、かねてから計画のあった新スタジアムを中心としたスポーツキャンパスの建設を念頭に置き、バーミンガム市内にかなり広い規模の土地を購入したことがわかった。オーナーたちは壮大なビジョンを描く。
そうしてこのクラブは忌まわしき時代からの脱却を図る。その過渡期を締めくくるべくやってきたのが、皮肉にもその出発地点に立ち会った張本人のギャリー・ラウエットだ。因果が回り、時代が動く。
残り8試合にかかるものは計り知れない。失われた7年間を取り戻し、繁栄の次世代へ。リユニオンの歓喜に浸る暇はない。波乱に満ちたバーミンガムの23/24シーズン、最後の大勝負が今日、幕を開ける。
今週のEFLアイキャッチ
League One:たった3試合、されど3試合
League Two:TVカメラの前でストックポートに大きな転換点
チャンピオンシップ
今季最後のお休み!
League One
プレミアリーグとチャンピオンシップだけではなく、もうLeague Oneでも実質的に1週休みとなるのが近年の代表ウィークのスタンダード。今回ももちろん例に漏れず9試合が代表招集によって延期となった中で生き残ったのは3試合、しかしそれでも、その3試合でいずれも各争いに大きな影響を及ぼす結果が出た。
先週の3位ボルトン相手の勝利で一気に自動昇格への機運を高めたかに見えた2位ダービーの不覚。どう見てももう目標を失っている中でトップチーム相手にビッグパフォーマンスを見せた昇格組の12位ノーサンプトンの健闘にはそれ相応の称賛が与えられて然るべきだが、それにしても自動昇格争いの勢力図を大きく狂わせる結果だ。
もちろん1点目の場面、ロングボールが出てくる前にはケイン・ウィルソンへの明白なファウルがあり、それがなぜか流されて失点に繋がってしまったという不運もあった。ただビハインドで迎えた後半にも特段の決定機があったわけでもなく、むしろより積極的にゴールに迫っていたのはホームチームの方。試合が進む中で攻撃の迫力を増幅させることがまったくできなかった。
これでせっかく前節に手にしたアドバンテージを自ら水泡に帰す形となり、消化試合数が並べば再び後ろとの差は1ポイント差になる公算が高い。ブラックプール、ポーツマス、ウィコム、レイトン・オリエントと続く今後の試合にもこぞって好調チームが並んでおり、途端に先週までのムードは消え失せてしまった。
90+5に吸い込まれた同点弾の際のざわめきがすべてを物語っていたのがブラントン・パークの2-2ドロー。ここ13試合で1勝12敗、ホームでは元日以来の勝利を目指した最下位カーライルが探していたのは残留への道筋などではなく、クラブとしての誇りに違いなかった。ここからの降格回避はほぼ不可能、しかしカンブリアの地でのフットボールは来季以降も続いていく。24歳のダニエル・バターワースが輝きを放っての2点リード、上昇気流を描いてのシーズンフィニッシュへその第一歩を踏み出すかに見えた。
PO争い勢としては考えられないようなオフデイの出来でビハインドを負ったスティーヴネッジがなんとか後半にその希望をかき消した。シュート数は相手を倍(8-16)上回りながらも枠内シュートに限れば1本負け(3-4)、正直なところ彼らのアチーヴメントというよりは極端に脆い相手のメンタリティに起因するという見方に組せざるをえないが、何にしても0よりは1ポイントでも取れた方がいい。勝てばPO圏6位浮上となっていたものの、試合数が並んでの1ポイント差7位、まだまだチャンスは残されている。
週末にかけて何度も大降りになるタイミングがあった降雨の影響で開催が危ぶまれたピレリ・スタジアムだったが、結果的にバートンのグラウンズマンたちはその自らの懸命な努力を呪ったかもしれない。残留争いに大きなツイストを生むポート・ヴェイルの今年初勝利はもちろんダレン・ムーアにとっての就任後初白星、順位表でも降格圏最上位の21位に浮上した。
この試合でピッチに立った選手中最多のシュート4本を放ったライアン・ロフトは、83分に迎えた超重要局面においてもその冷静さを保っていた。中に走りこむ味方へのアンセルフィッシュかつピンポイントのスルーパスに続き、結局自分のところに流れてきた最後の場面では相手DFの脚をかわすロブでのシュートという最適解。背番号9ながらこれが今シーズンの初ゴール、欲しいところでようやく自身の仕事を果たしてみせた。
一方のバートンは言い訳の余地もない枠内シュート2本での敗戦。これが他の相手ならばまだしも、ホームで自身より順位が下のチームと当たってのこれとなると、残留争い中のライバルと比較した場合ですらも強気になることはできない。これで直下にいる3チーム(ケンブリッジ、ポート・ヴェイル、チェルトナム)よりも消化試合数が多い中で降格圏とは3ポイント差、自力では残留を決められない位置に入ってきてしまったことになる。
ポート・ヴェイルにとっては久方ぶりに希望が生まれる結果となった。ここからの対戦相手を見ても中下位のチームが多く、粘り腰を見せられるチャンスは十分にあると見ていい。
League Two
現トップ4のうち3チームの姿がTVカメラに映し出されたL2のビッグウィークエンド、その中でもまず向かうのは最後のキックオフとなったエッジリー・パークでの一戦。私も現地観戦した2位ストックポートvs4位MKドンズの直接対決だ。
この試合の観戦記についてはいつも通りインスタを参照してもらうとして、この試合の大きな前提となってしまったのは試合前に振り始めた大粒の雨だったように思う。降ったり止んだりの状態がしばらく続いていた中で、だいたい試合の30分ほど前からしっかりとした雨粒になり、キックオフの頃には本来傘を差すほどの天候になった。
さらに笛が鳴った後にはさらに一段と強まっていき、前を直視するのにすら苦しむほどのどしゃ降りの雨になってしまった。インスタにも書いたが観客としても試合を見るどころの騒ぎではなく、一時的に多くの人が屋根のあるエリアに避難していたほどだった。
そんな中で試合が動いたのは雨がやや弱まり私もスタンドに戻っていた31分のこと。それまでMKドンズが直近の好調ぶりを存分に見せながら悪コンディションの中でもしっかりボールを繋ぎチャンスを作っていた中で、1つの大きすぎるミスがストックポートに突然の先制点を与えた。
この場面、得点者のカラム・キャンプスすらもはっきりと諦めの仕草を見せてネガトラに切り替えようとしていたほどに、通常であればゴールキーパーが100%掴み取らなければいけない状況だった。およそプロレベルではあってはならないミスではあったが、それでもあの時同じ向き・同じ状況で時間を過ごしていた者として、GKマイクル・ケリーを少しばかり擁護しておきたい。とにかく尋常ならざる雨が降っていた後で、集中力を保つのも難しかったであろうことはもちろん、芝生やボールなどありとあらゆる変数の存在が考えられる状況だった。だからといってもちろん受け入れられたミスではないが、少なくともかなり特殊なコンディションだったことは確かだ。
しかし結果的にこのミスの代償は高くついてしまった。それまで優勢度合いで言えば「0-100」レベルで試合を支配していたMKにこのゴールが与えた衝撃は想像に難しくない。その後2点目も1月の加入以来中盤で好調の立役者となってきたルイス・ベイトのパスミスからの失点、3点目も明らかにチームとしてフワフワしてしまっていたところを突かれての縦パスからの失点。なぜあの前半を0-3で終えることになってしまったのか、彼らにとっては理解の及ばない出来事だったはずだ。
さらには後半の立ち上がりにもコナー・レモネイ=エヴァンズの見事な一撃が決まって試合は完全に決着。最近パフォーマンス的にもフォーム的にも一時期からの大きな落ち込みを見せていたストックポートにとっては、最高のタイミングで最高の運を味方につけた形だった。もっとも訪れたチャンスをしっかり決め切った(特に前半はチャンス3つで3点決めたも同然だ)点で彼らは称賛に値するし、タント・ウラウーフェとカイル・ウートンが並ぶ2トップは実に理想的なバランスを保っているように見えた。ここにルイ・バリーの復帰もようやく見えてきたとあらば、さらなる上積みさえも期待できる。先制するまでは決して無視できないプレッシャーの声も発生していた中で、極めて大きな勝利を掴み取った。
MKにしても深く考えるべき敗戦ではないはずだ。その後の動揺を思えばやはりあの1点目が全てだったように思うし、それはいわば当たり前の反応でもあった。本来目を向けるべきはあの失点前のサステナブルなパターンプレイの数々であって、そこに今後を危惧する理由など1つも存在しない。ただこの圧倒的な不運が彼らにとっては最悪のタイミングで訪れてしまったこともまた事実で、従ってウォルソール、ノッツ・カウンティと続くこのイースターの連戦はトップ3チャレンジへは重要なマストウィンの試合になる。その点で2ヶ月離脱していたエースのマックス・ディーンが負傷からの復帰を果たしたことは大きく、0-4ビハインドで入ってきたにも関わらず威圧感さえ覚える様子でプレイに集中していた彼の姿は、何とも心強いものだったことを最後に書き残しておく。
もう1試合の放送ゲームだった首位マンスフィールドの試合は、GKオーウェン・グッドマンが再三の好守を見せたコルチェスターを崩し切れずにホームでのドローゲーム。22位とはいえその主要因は相次いだ試合の延期にあるコルチェスターは大方の予想を裏切るパフォーマンスを見せ、あるいは1ポイント以上にも値するような内容だった。ここは順位で語るよりも純粋に「好チーム同士の戦いだった」と捉えた方がよさそうで、グッドフライデーにはレクサムとのアウェイ戦が待つマンスフィールドを過度に心配する必要もないように思う。
そのレクサムは似たようなシチュエーションで21位のグリムズビーと対戦。こちらはアウェイでの戦いだったが、アンディ・キャノンのwell takenこの上ない2ゴールなどでしっかりと勝ち切ることができた。アウェイではやや揮わない成績が続いていた中での連勝、こちらは堂々たる経過を辿ってマンスフィールドとの大一番に臨む。
今週の大ニュースといえばPO圏への新チーム参入。8,9位の2チームよりもなんと2試合消化を少なくして、シーズン前の降格候補筆頭、クロウリー・タウンが満を持して7位に浮上してきた!
現状の順位こそ完全なビーチ勢とはいえ、ここ2試合ではなんとマンスフィールドとレクサムを相手に連勝、ナイジェル・アトキンス就任後の成績ではリーグ3位の成績を収めている紛れもない強敵トランメアを相手に、クロウリーは彼ららしいリスクを厭わぬ戦いぶりでアウェイでの3ポイントを持ち帰ってみせた。ここ9試合の成績では6勝2分1敗、決して相手に恵まれての成績というわけでもない。
注目すべきは主力として活躍する選手たちのプロフィールだ。この試合先制ゴールを決めた26歳のジェレミー・ケリーは冬の新戦力、その加入元はアメリカ2部のFCタルサというクラブで、キャリア通算でもMLSでの出場は7試合に留まっている無名の存在だった。また2点目を取ったジェイ・ウィリアムズも夏に6部のブラックリーから加入した選手で、この日先発した中には夏にノンリーグから獲得した選手が他にも2人含まれている。
3点目を取ったチーム得点王のダニーロ・オーシも今シーズンがEFL(いずれもL2)でのキャリア3シーズン目で、昨季はグリムズビーで24試合2ゴールだったことを思えば、ここまでの37試合16ゴールという数字はセンセーショナルと言う他ない。この無名選手ばかりを集めた夏からの補強は、話題性と財力に物を言わせて大物を集めた(そして大失敗した)昨季からのコントラストで彼らを降格候補たらしめる大きな理由となっていたが、蓋を開けてみればスカウト陣の慧眼に唸るしかない。
そして何より監督のスコット・リンジーである。昨季途中にスウィンドンから引き抜かれた際にはその判断を疑問視する向きが圧倒的だったが、夏を経てその独特の戦術を仕込み切ったこともあり、有無を言わさぬ結果を出してきている。とりわけピッチ外が騒々しいこのクラブにおいて、仮想通貨を生業とするオーナーの下でのクラブの未来は依然不透明と言わざるを得ない中ということを思えば、私には彼を差し置いてL2の最優秀監督になるべき人物をそう多く思い浮かべることはできない。その意味でももしPOに進めれば1つわかりやすい成果となることは間違いなく、勢いそのままの突破への期待がかかる。
下位の争いでは降格圏内の23位と24位が入れ替わった。先週も書いた通りここから前代未聞の厳しい日程(トップ5相手の5連戦)が待つフォレストグリーンは(実はここ10試合の成績がリーグトップの)ドンカスターに無慈悲な敗戦、しかもまったくと言っていいほど気のないパフォーマンスで、最下位転落と共に連続降格へ明確な赤信号が灯ってしまった。
そして23位に浮上したのがサットンだ。
がん支援のチャリティオークション用に見慣れないオーベルジーヌ色の特別ユニフォームを纏ったホームゲーム、新監督ジョン・ドゥーランの下での初戦となったビーチ勢アクリントンに相対して、そのオークションの寄付価格アップにも繋がりそうな見事なパフォーマンスで連勝を飾ってみせた。とりわけ冬にAFCウィンブルドンからやってきた中盤のチャーリー・レイキンは驚異のアシストハットトリック、その内1つは触らなくても入っていそうだったコーナーキックで1点を奪われたという見方もできるが、そのおかげで3アシストになったのだから良しとすべきだろう。
1月に大功労者のマット・グレイを解任し完全に袋小路に陥ったかに見えたサットンだったが、その後就任したスティーヴ・モリソンはローカルBBCの番記者とのトラブルも起こすなど万事順風満帆とは言えないものの、少なくともピッチ上のパフォーマンスについては明確な進歩をチームにもたらしている。モリソン就任後に喫した6敗はいずれも1点差負けで、ホームではこれが初勝利となったものの、ドローが多く負けたのも2試合しかない。
この後の対戦相手を見ると6試合のうちストックポート、クロウリー、MKドンズという現トップ7のうちの3チームを依然残しており決して楽ではないが、どんなチーム相手にも接戦には持ち込んでいる今の状態を思えば、少なくともフォレストグリーンよりはよっぽど降格圏脱出の可能性は残されているように見える。あとはグリムズビーとコルチェスター次第にはなってくるが、2つの枠が早々に決まってしまう画はなかなか想像できない。彼らがもう一波乱起こせるだろうか。