これまでの人生でイングランドでは10試合ほどフットボールを見てきたが、そのいずれもが「ホームサポーター」、あるいは「中立」としてのもの。
皆が「ホームよりも楽しい」と口を揃えて薦めてくれる「アウェイデイズ」初体験の週末である。
電車で40分ほどの距離にあるチェルトナムだが、現在イギリスではご愛敬とも言うべきストライキが勃発中。行きはいいのだが帰りの電車がなく、いろいろと考えた末に帰りだけはバスを使うことにした。
まあとにかく雨が酷かった。いつも突然雨は降ってくるが、逆に言うと断続的に大雨が降ることは普段そんなにない。しかしこの日はずーっと降っていて、ちょっと郊外にある駅から節約を兼ねて40分歩いて向かったところ、かなり身体が冷えてしまった。
それでもアウェイサポーター用のファンゾーンで1杯ビールを煽れば、不思議と心も身体も暖かくなってくるものだ。この前の買収記念パーティーで会ったおじさん(チェルトナム出身らしい)にも再会し、意気揚々とスタジアムへ向かう。
ターンスタイルを抜けるとすぐにゴール裏の景色が飛び込んできた。近い。いかにも3部4部のスタジアムという感じの、芝生の匂いがプンプンしてくるような場所だ(実際にするのはホットドッグの匂いだが)。
チケットに書かれた席へ向かうと既に子ども連れが座っていた。「席なんか関係ないからどこでも座っていいんだよ」と言われる。ほんとかよ。
まあどうやら本当らしく、雨ということもあってか比較的早めに他のサポーターも(屋根のある)スタンドに入ってきて、目の前で行われている選手たちの練習を見る。
シュート練習が実に楽しく、ふかした選手のボールが矢継ぎ早にこっちに飛んでくる!そのたびに茶化しの声が上がり、一方で良いシュートが決まったりキーパーが良いセーブを見せたりすると拍手も起きる。いろんな意味で近い。
試合そのものは前半に全5ゴールが入り、後半は完全に眠たくなってしまう展開でそのまま3-2の勝利。今年のプレシーズン、「あるチーム」はこれで3戦3勝になった。
もちろんプレシーズンマッチの勝敗は二の次三の次に考えるもので決して重視すべきではなく、一番大事なのは選手それぞれが出場時間を得て試合勘を培うことである。
とはいえ勝って困ることなどないし、結果が出ているのにわざわざ悲観する必要もない。
ここまでのプレシーズンで誰よりも目立っているのがジョーダン・ジェイムズだ。元々中盤の選手だがこのプレシーズンでは右に入ることが多く、その位置で現在3試合連続ゴール中。
何か自分の形を見つけたような感じで、インスタントな比較をするならランパードのような得点嗅覚を身に付けつつある。この試合では後半から本来の中盤の位置に下がっていたが、そこでも自信満々にプレイしてボール支配の中心となっていた。
もし中盤右に入るのならおそらく三好のライバルになる。JJの名前はファン以外の方も覚えておいてほしい。
他にもこの日正式に加入が発表されたケシ・アンダーソンは自ら祝砲となるゴールを決めトライアリスト時代からの好調を維持、イーサン・レアードのボール運びは別格で、初スタメンだったシリキ・デンベレもワクワクさせてくれるような突破を何回も見せてくれた。この3人、全員新加入選手。
それに後半から出てきたアカデミー出身のブランドン・キーラも良かった。手足が長く独特なリズムを持っていて、セットプレーも任されているくらい足下がうまい。すぐにトップチームに絡んでいけるだけの実力がある。
ここにビエリクが戻ってくる。三好も戻ってくる。タイラー・ロバーツもこの日はお休みだった。何にも増して今シーズンの大エース、ジョージ・ホールもまだケガから戻ってきていない。
噂されるストライカーの補強さえ現実になれば、相当に層は厚くなる。POとは言わずとも、トップハーフくらいなら十分に狙えるのではないか。
何はともあれ、人生初のアウェイゲームを勝って終われたのはよかった。
「自由席」の私の隣には、開始直前に完全に出来上がった状態で入ってきた若者グループが座っていた。結構やんちゃそうな子たちだったが、(どうやら私の存在も知ってくれていたらしく)途中で話しかけられ、いろんな話をした。
この国のフットボールファン(とりわけこのクラブのファンベースが、なのかもしれないが)からは、本当の意味での育ちの良さというか、非常に正しい方向に向いた好奇心・人懐っこさを感じる場面が多々ある。別に気にする必要なんかないのに多くの人が気にかけて向こうからアプローチをしてきてくれるし、「助けになりたい」という気持ちをひしひしと感じる。
自分が日本で同じことをできるだろうかと考えると、本当に考えさせられる部分が多い。
バクーナが3点目を取った時、テンションが上がったのもあって、彼のチャントの一節を歌ってみた。すると隣にいたその子が肩を組んで乗ってきてくれて、それが広がっていった。チャントをリードできた!ありがとう、リアム。
いつの間にか雨も上がり、帰りのバスに乗ったのは18:30。短いようで長かった初体験のアウェイデイズだった。
今週気になったEFLのニュース
CH昇格組プリマスとイプスウィッチが移籍市場で活況、もう1チームのウェンズデイは…
チャールトンの新経営陣に日本人グループが参画
何よりも今週はプリマスの補強に驚かされた。モーガン・ウィテカー、バリ・ムンバ。昨シーズンのLeague One優勝の立役者にして、再会は極めて困難かに思えた2人のキーマンが、共に100~200万ポンドの移籍金で再加入したのだ。
一部で彼らを放出したスウォンジーとノリッジの判断を疑問視する声もあるようだが、個人的にその論調には乗れない。何せ彼らの昨季のプリマスでの活躍はあまりにもセンセーショナルなものだったし、いくらそのチームが昇格して同じディヴィジョンになったからといって、こういった場面では選手個人の意思を最優先に尊重しないと後々のあらゆることに響く。
22歳のウィテカーに関しては殊更だ。彼はダービーの出身で生え抜きでもなく、大活躍を見せた昨季前半を受け半ば無理やりにリコールした1月以降の戦いで、スウォンジーは彼を活躍させるためのプランすら示せなかった。
リコール前までのプリマスでの成績はリーグ25試合で9ゴール7アシスト。攻撃的MFながら少しでもスペースが見えれば強引にシュートを打っていく、そんな彼の積極的なスタイルを正しく戦術に組み込めていたのはプリマスだったし、より忍耐強さが要求されるスウォンジーに彼を最大限活かすための土壌はなかったようにも思う。
関係する誰しもがプリマス復帰を望んでいたウィテカーのケースに比べて、ノリッジから戻ってきたムンバのケースはプリマスにとってより困難なものだった。何せ彼らは既にケイン・ケスラー・ヘイデン(アストンヴィラからローン→)という明確な後釜すら確保しており、ムンバの再獲得を半ば諦めるかのような動きを見せていたのだ。
しかしムンバ本人たっての希望が状況を動かした。彼は昨シーズン、ケガ人やローニーのリコールなどで入れ替わりの激しかった(それでも代わる代わる別の選手が活躍したが)プリマスの中で、シーズンを通して主力として出続けた大功労者の一人だった。
主にWBでの出場ながらリーグ41試合で6ゴール7アシストの成績は立派という他なく、彼の鋭い切り込みがプリマスが誇る一番の武器になっていたと言っても過言ではない。失望の降格1年目を経て、どこよりも新陳代謝を求めているはずのノリッジにとって、ムンバはその象徴にすらなり得る存在だったとも言える。その証拠に、彼はシーズン終了直後の5月、ノリッジのクラブTVでどう考えても残留前提のインタビューに応えている。
その一方で、ここまでのプレシーズンにおける彼の出来はお世辞にも芳しいとは言えないものだった。デイヴィッド・ヴァグナーのシステムに彼が主戦場とするウイングバックのポジションは存在せず、慣れないレフトバックでは攻撃面でも守備面でもポジショニングの粗が目立った。
「アカデミー出身で昨季3部MVP級の活躍を見せた選手をトップチームで大して試しもせずに放出する」。この決断はどう切り取ってもノリッジにとって大きなリスクであり、当然ファンの失望を呼ぶ選択ではある。しかし現状のチームでは十分に活かせないと判断した選手を飼い殺すことなく、与えられるべき活躍の場を提供するという考え方は、決して間違いではないと個人的には思う。
クラブのアカデミーを若者にとってより魅力的な環境にするのは絶対にそういった方針だ。「損して得取れ」ではないが、必ず他の選手やエージェントはこういった動きを見ている。
それと同時に、「出れないのなら絶対にプリマスに行きたい」と希望していたとされるムンバの意向からは、CHでも有数の若手選手複数名からラブコールを受けるプリマスが現状持つ魅力の高さが伺い知れる。
それは外野から見ているだけでも十分に頷けるものだ。スティーヴン・シューマッカーは決して声高に補強を要求するタイプではなく、与えられた戦力を育てて伸ばしていく能力に長けた監督だ。その特性はEFLでも屈指の健全な財政状況を誇るプリマスと非常によくかみ合っていて、多くの選手たちにとっても魅力的に映るだろう。
同様のことが同じCH昇格組のイプスウィッチとキーラン・マッケンナにも言える。今週彼らはチェルシーからオマーリ・ハッチンソンをシーズンローンで獲得した。
ハッチンソンはこの夏の動向がかねてから注目されていたローニーの1人だ。既にジャマイカのフル代表入りを果たしているユース年代では名の知れた選手で、1月のデッドラインデイにはウェストブロムへのローンが決まりかけていたが直前で破談となり、初のローン移籍が持ち越しになっていた。
個人的にこの夏ここまでのEFLベスト補強と言っても過言ではないと思っているジャック・テイラー(ピーターバラ→)をはじめとして、獲得人数こそ4名とまだ控えめながら、イプスウィッチの補強には特筆すべき弾の強さがある。若く、現時点での実力も確かながらにして明らかにまだまだ成長の余地を残しており、完全移籍で来た選手は皆高いリセールバリューも見込める。
昨季の戦いぶり、クラブとしての進歩の度合い、監督の先進的なアイデアとキャラクター。「League One史上最高級」の優勝争いを演じたプリマスとイプスウィッチには、同時にそれを裏付ける多くの共通点がある。開幕を目前にして、この2チームへの期待は右肩上がりだ。
残す1チーム、シェフィールド・ウェンズデイについては、基本的には先々週も取り上げた通りの状況が続いている。ようやく何人かの選手が加入し始めたものの、控えめに言っても全員目を引くような名前ではない。
やはり気になるのはその新加入選手たちの年齢である。今のウェンズデイのようなポジションのクラブは決して30歳前後の選手を取ることに注力すべきではなく、だからといって彼らが現時点で既にアカデミー出身の有望株を多数抱えているわけでもない。
今週加入が発表されたフアン・デルガドにしても、アシュリー・フレッチャーにしても、いずれも新監督のチスコ・ムニョスの下で以前プレイした経験を持つ選手だ。それ自体責められるべきことではないにしても、チスコは中長期的なチーム作りで実績を持つ監督ではないし、クラブ内での方針がこれらの動きからは全く伺えない。
もちろん移籍期間はまだ1ヶ月以上あるので、ここから状況が劇的に変わる可能性も十分にある。
ウェンズデイにとっては早くも残留争いへの正念場と言っていいだろう。
【チャールトン】
ACAフットボール・パートナーズ EFLリーグ1 チャールトン・アスレティックへ資本参加 - PR TIMES(プレスリリース)
まず最初に、リリース内の言葉を借りて「イングランドのプロクラブの株式を取得する初の日本人グループ」の誕生に敬意を表さなければならない。昨シーズンの中山加入あたりから縦に繋がっているようにも見える動きで、間違いなく歴史的なことだ。
ACAFPの事業内容や他2クラブでの評判については今この時点で語ろうとしても絶対に付け焼き刃の知識になってしまうので、ここではチャールトンという軸から見て最初の感想を書き残しておく。
以前からTwitter等をフォローしてくださっている方にはお馴染みかと思うが、チャールトンは近年のEFLオーナーシップ問題混沌の歴史の中でも、残念ながら安定して話題の中心部に居残り続けてきたクラブである。
ローラン・ドゥシャトレ(皮肉にも彼はシント・トロイデンをDMMに譲り渡したオーナーでもある)の無気力経営問題ですら10年近く前の話で、そこからコロナ禍でのマット・サウスオールやクリス・ファーネルといったEFL史に残る悪名高き人物らによる茶番劇を経て、「ロックスター」トーマス・サンドゴーアがもたらした一瞬の光明も長続きはしなかった。
その中でチャールトンのファンは「フットボールクラブの経営」、またそれを行う人物に対する厳しい批評眼を培ってきた。その極めつけとも言うべき存在がCharlton Dossierと名付けられた分厚いウェブサイトである。
ここには彼らが長い年月をかけて経験せざるを得なかったフットボールを純然たる無機物として扱うオーナーたちとの歴史、そしてそこから全フットボールファンが得るべき教訓が書き連ねられている。もしお時間があれば、ご一読されることを強くお勧めする。
話を戻すと、6月にクラブ買収を発表した現オーナー(=ACAFPが参画する)SE7パートナーズにも、初期段階からファンの疑いの目は向けられている。その主要因は前述のプレスリリースにも登場するオーナーグループの代表者(正確には横並びの株主の1人)、チャーリー・メスヴァンの存在だ。
“Sunderland til I die“ をご覧になった方ならその理由が理解できるはずだ。彼はスチュアート・ドナルドによるサンダランド買収を仲介し、その後CEOとしてクラブ運営の実権を握っていた人物である。在任中にはマーケティング面で成功を収めた一方で、度重なる放言などによってファンベースから蛇蝎の如く嫌われ、ほぼ「共通の敵」と言っても過言ではないレベルにまでなっていた。
複数のグループが共同参画して形成されるSE7パートナーズにあって、メスヴァンはその中でほぼ唯一のイングランドに拠点を置く人物であるため、元々の知名度も相まって必然的にコンソーシアム内の中心的存在とみなされている。
そして買収までの経緯が不透明で時間がかかったこともあり、彼には早期から追及の声が寄せられていた。そこで彼はCharlton Dossierによる独占インタビューを受け入れ、買収正式承認後の19日にその記事が公開された。
非常に長く要点をピックアップするのも難しいインタビューだが、主に焦点となっているのは(公式声明だけでは何のことやらわからない)複雑なコンソーシアム内の構造だ。
主な資金源となるのはグループ内の北中米系ヘッジファンドで、実際のクラブ運営で実権を握るのはサンダランド時代にも彼と仕事をしていたジム・ロドウェルなど。メスヴァンはその間の橋渡しに専念するような口ぶりで、これを読む限りでは当初予想されていたよりも彼の関与は小さい範囲のように見える。
当然回答の無駄な長さや最後のサンダランドのことを聞かれた時の答え、録音の公開を拒否したという事実、そして彼の前科を考えれば疑問符は拭い去れない。それでもメスヴァンが言う「前(サンダランド)のオーナーと今回のオーナーはプロフィールも目的も違う」という部分には頷ける部分もあり、買収が決まった以上はとにかくどんな方向に向かっていくのかを見守るしかない。
幸い今夏のチャールトンはアルフィー・メイなどの優れた人材を説得し獲得できてもいる。これは間違いなく良い傾向だ。
またインタビューを読む限りでは、おそらくACAFPのフットボール面への関与は限られた範囲になるのだろう。これをきっかけに日本人選手が大挙してチャールトンに押し寄せることは(GBPルール的にも)考えづらく、目に見える形での寄与がどういったものになってくるかはもう少し観察が必要だ。
ただこれはお節介な指摘だが、大事なCEOコメントにコピペしたことが丸わかりの半角スペースが混ざりまくっていたり、クラブ名の英語版正式名称を「CF」と誤記(スペインのクラブ名からコピペでもしたのだろうか?)したりという初歩的なミス(もっと細かく見ればこれ以外にもある)がリリース内に散見される。
これは正直ちょっと心配だ。
もちろんこういったことが直接クラブ運営に関係してくるわけではない。それでも今、彼らの最大のステークホルダーとなるのは、あのチャールトンのファンである。
彼らはオーナーグループの一挙手一投足を見ている。それだけはぜひとも忘れないでほしい。