「ワクワクして寝付けない」という感覚を味わったのはいったいいつぶりのことだろうか。バスが出るスタジアム近くのパブへの集合時間は朝8時半。もし寝坊でもしようものなら一生の恥だ。
23/24シーズンの開幕戦。この日を夢見て仕事を辞めた。ここから始まる冒険のために人生を左右する決断をした。いよいよ、この瞬間が来た。
行きの社内でボロボロに酔っぱらってしまった先週とは違い、(無意識に量をセーブしていたのかもしれないが)今週は意識をはっきりと保った状態でウェールズへの片道3時間を過ごせた。酔ってはいたが、それ以上に興奮していた。
途中経由地のポート・タルボットのパブでたっぷり2時間ほど飲酒休憩を取る。多くの人に話しかけられて楽しい。そして何より、試合まで1時間を切ってきたあたりから、待ちきれずにチャントの大合唱が始まる。
流れのままにプール台の上に担ぎ上げられ、多くのファンが集う景色を上から見る。声を枯らすほどに歌う。絶対に日本では見ることのできない景色、経験することのできない感情。
あまりにもクサすぎて書くのも憚られるが、「仲間」という言葉が強く想起された。ここにいる人たちは皆同じチームを応援している。同じ熱量を持っている。
そして同じ目的を持っている。
それは、今日勝つこと!
ポート・タルボットで(予定通り)騒いだせいでコーチがスタジアムに着いたのは14:55頃のこと。さすが「試合直前に入場する」フットボール文化、既にピッチ上では選手たちが円陣を組んでいた。
チャントが鳴り止まない。こちらも、向こうもである。残念なことにスウォンジーのスタンドには少なくない空席も見えたが、それでも見たことがないくらいの熱量であることには変わりない。
試合はイーブンな展開だった。スウォンジーも監督がラッセル・マーティンからマイクル・ダフに代わって、その繋ぎのエッセンスは残しつつも、縦への速さは確実に増していた。こちらも伝統的な堅さをベースに両FBを起点としてコンパクトなフットボールを展開する。
試合が動いたのは前半終了間際のこと。敵陣最後方でのミスを突き、新加入のシリキ・デンベレがデビューゴールを決めた。得点直後のキープライトオンは、それはそれは凄まじかった!(ので、動画は撮っていない)
しかし後半に入り、マット・グライムズの素晴らしいパスから同点に追いつかれ(それまでHT後はチャンスらしいチャンスもなかった)、試合はよりオープンな展開になった。
そして試合時間残り5分を切ろうかというところで、この人がピッチサイドに現れた!
正直なところ、個人的にはベンチ入りすら予想していなかった。最後のプレシーズンゲームでさえケガでベンチ外、ましてミッドウィークには調整の場として最適なカラバオの試合もある。それでも多少のリスクを冒してのメンバー入り、そして1点を取りに行く場面での出場。練習で良いパフォーマンスをしていなければ起こり得ないことだ。
前半からアップで走ってくるたびに周りの人が声をかけてくれた。そして投入の瞬間、多くの人がこちらに笑顔を向けてくれた。叫ばずにはいられなかった!
「康児、がんばれ!!」
追加タイム含め10分少々の出場ながらも、三好は存分に持ち味を発揮していた。「Kojiのファーストタッチ」という言葉が試合後も話題に登っていた(浮き球を完璧にトラップして切り込んでクロスを上げた)。出し先がイヴァン・シュニッチでさえなければアシストデビューとなっていたであろう場面もあった。
試合で1-1で終わった。46試合のシーズンがここに始まった!
3日後の火曜日、今回の滞在で初のナイトゲームは、カラバオカップ1回戦のチェルトナム戦だ。
これはいつものDavoの動画だが、実はこれを撮っているバス出発直前にもう1本クラブに頼まれて動画を撮影した。これは公に出るかどうかはまだわからないのだが、非常に興奮する撮影だったので、もしパブリックに公開されることがあれば必ず紹介する。
さて、前日会見の話から三好の先発デビューが濃厚だった一戦。試合の1時間前、チェルトナムのパブで酒を飲んでいる時にその一報を知り、↑で言っている酔いはすっかりどこかへ行ってしまった。
試合自体はジュニーニョ・バクーナの2ゴールで危なげない勝利だった。過去数年、こういった格下の相手にも軒並み苦しんできた覇気に欠ける姿はもうない。新オーナーによる買収によって、クラブカルチャーそのものが変わろうとしている。そう強く印象付けられた今季初勝利だった。
そして試合後、スタジアムから帰るファンが口々に話題にしていたのは、2ゴールを決めたバクーナのことではなかった。他でもない、三好康児のことだった!
左サイドのアンダーソンと頻繁に立ち位置は入れ替えていたが、基本的にこの日の三好は10番のポジションでのプレイだった。開始20分過ぎまではやや心配になる消えっぷりではあった。しかし一度前を向いてボールを持った瞬間から、彼の存在感が一気に増した。
前を向いてのドリブル突破はもちろん、この日何よりも光っていたのはそのパスセンスである。チェルトナム最終ラインの裏に面白いように彼からのスルーパスが通りまくり、この日彼にアシストが付かなかったのは真にアンラッキーとしか言いようがない。
普通の職場とは違い、フットボーラーはたった1日、たった1つのプレイで仲間やステークホルダーからの尊敬を集めることができる。
三好康児にとってのそれは、まさにこの試合だったように思う。この日いったい何回、彼のプレイが生んだ驚嘆の声を聞いたことだろうか。相手のレベルなど関係ない。あんなパスを立て続けに何本も通すのは、偶然が為せる技ではない。
そんな瞬間に立ち会えたことが何よりも幸せだったし、この後のシーズンが本当に楽しみになった。まだこれだって彼の100%ではないはずだ。何せ三好はプレシーズンの後半を全休した大怪我明けの選手である。
プレシーズンでは感じられなかったファンの熱気もそこにあった。スウォンジー戦では今にもピッチに飛び込まんばかりの勢いでPKを取らなかった審判が罵倒されていたし、チェルトナム戦では後半CK時に揉み合いを起こした相手GKルーク・サウスウッドに容赦ないブーイングと “It’s all your fault…“ のチャントが浴びせられた。
フットボールが帰ってきた。かけがえのないシーズンが始まった。来週はホーム開幕戦、いよいよあのスタジアムに戻ることができる。
今週のEFLアイキャッチ
今シーズンからの新ルールについて
チャンピオンシップ - 今年は違う?昨年の降格組2チーム
League One - 7th Heaven, バーンズリー!
league Two - レクサムとノッツ・カウンティ、共に「誤」算の開幕戦…
何よりもまずは、EFLを含めたフットボール界全体に大きな影響を及ぼす2つのルール変更について触れておかなければならない。
もちろんファウルの厳格化、そして追加タイムの厳格化の2つである。
開幕週では昨シーズンの平均に比べて、各ディヴィジョンでイエローカードが各試合1枚以上(L2に至っては平均3枚!)増加していた。審判への抗議、ボールを蹴りだす時間稼ぎなど、ありとあらゆる反スポーツマンシップ行為に対する罰則が強化され、退場処分を受けた監督は自チームのオウンドメディアにさえ試合後インタビューに応えることができなくなった。
また昨年のカタールワールドカップでも話題となった長い追加タイムも今シーズンからは毎週の出来事となる。L1のカーライル-フリートウッド戦では前後半合わせたプレイ時間が120分を超え、(後述する)L2のサットン-ノッツ・カウンティ戦では既に5-1だったのにも関わらず10分以上の追加タイムが掲示された。
これらは全て「年々増加する試合におけるTime Wastingの比率を減らし、Playing Timeを極力確保しよう」という目的の下でのルール変更だ。
とりわけ追加タイムについては「既に過密日程が問題になっている中で選手の疲労を考慮していない」等の批判が出ていることはもう皆さんもご承知おきかと思う。個人的にはカードの罰則強化については特に反対する理由もないと思っているが、追加タイムについては上記の理由にも首肯するのと同時に、もう1つ身に染みて感じたことがある。
それは試合を見に来るファンの都合だ。前後半共に10分以上の追加タイムが足される可能性が出てくると、試合終了時間が読めなくなってしまう。私のようにコーチでアウェイ遠征している場合はいいが、例えば電車で来ているアウェイファンであれば、乗り過ごしてしまう可能性が十分にある。
もちろん慣れの問題でもあるとは思う。しかしこのPlaying Time確保が「ファンのため」と銘打たれたキャンペーンなのであれば、いったい今のところこれで誰が得しているのかをしっかり考えるべきだ。
チャンピオンシップ
開幕週のチャンピオンシップで文字通りのキックオフ直後から注目を独り占めにしたのは、ワトフォードの圧倒的なパフォーマンスだった。
もちろん開幕戦1試合だけの出来では何もかも判断することはできない。どんな惨憺たる成績を残すチームでもシーズンに1回は良いパフォーマンスをして勝つものだし、それが1/46の確率なのだとしても、開幕戦で絶対に起きないという保証はない。だから当然「参考程度」という注釈はつける必要がある。
ただそれにしても、この試合でワトフォードが見せた戦いぶりは結果以外の面でもサプライズに満ちていた。開始1分でリードしたのにも関わらずポゼッションは70.9%、合計パス数は601本にも上り、およそヴァレリアン・イシュマエルのチームとは思えない繋ぎっぷりを披露したのだ。
今シーズンから10番になったイムラン・ルーザの質の高い捌きもこのスタイルに非常にフィットしており、あるいは超ダイレクトスタイルで知られるヴァルボールは次のフェーズへと突入するのだろうか。
その一方でこちらは引き続き観察するまでもなく、戦前から予想されたQPRの非常に厳しい状況が浮き彫りになった試合でもあった。開始1分からあれだけラインがボコボコになり失点してしまうのでは何とも厳しく、失点後の反発もほぼなかった。早く何かしらの希望が欲しい。
ワトフォードと同じく昨季の降格組、ノリッジはホームで95分の決勝弾による2-1逆転勝利。昨シーズンはなんとアウェイでの獲得勝ち点を下回ってしまうほど良くなかったホームで、モラルブーストとなるべき勝利を掴んだ。
得点者がまたいい。45+2の同点弾を決めたのはプロキャリア4試合目、20歳のジョン・ロウ。彼に比べればもうお馴染みの存在だが、95分の決勝弾はこちらもアカデミー卒業生のアダム・イーダーが決めた。明らかに若手のフレッシュな力が必要な降格2年目、願ってもないスタートだ。
バーンリーに置き去りにされた「2年目」の2チーム。復権への意思を強く示す開幕戦勝利だった。
今シーズンの降格組3チームはいずれも一度は先制あるいは同点弾を許しながらも、サウサンプトンとレスターが勝利しリーズは土壇場で追いついてのドローに持ち込んだ。
この中で最も明るい兆候を示したのはサウサンプトンだろう。既にマーティンボールが浸透し、各々がその特殊な役割を理解しているように見えた。開始5分でなぜか道しるべを失ってしまったシェフィールド・ウェンズデイの不出来も間違いなく一因にせよ、それ故に同点にされた後も特に焦りの様子は見られず、ボール保持は普段通り行っていた。決勝弾こそ移籍濃厚なジェイムズ・ウォード・プラウズの果敢なダイアゴナルランに依拠したものではあったが、プロセスは確実に進み始めている。
レスターの開幕戦は控えめに言っても非常にラッキーだったと思う。それくらいコヴェントリーのビッグチャンスの外し方は目に余るもので、別の機会であれば3,4点余裕で入っていても全くおかしくなかった。一つ確かなのは、しばらくの間レスターの試合は第三者目線からすれば非常に面白そうだということ。攻撃面では劣勢の終盤にいくつかの形を示していたし、キアナン・デューズベリー・ホールの言わずもがなの活躍もあったが、守備はかなり破綻気味のように見えた。
そしていきなり2点のリードを許してのスタートとなったリーズは、後半に見事なカムバックを見せそのキャラクターを示した。まさに最後の同点弾などはその直前のルイス・シニステラの勇気とクリセンシオ・サマヴィルの思い切りが生んだ得点だったし、少なくとも降格のショックを感じさせるような戦いぶりではなかったのが朗報だ。しかし得点者2人の長期離脱は実に痛い。特にこの若いチームでリアム・クーパーが果たす役割は計り知れないと思う。彼抜きのピッチ上には誰かしらのステップアップが求められる。
他には昨季プレイオフでのコヴェントリーの戦いぶりをそのままコピーしたかのようなミルウォールの見事なミドルズブラ撃破があり、1人退場してから本領を発揮したサンダランドの真骨頂をいなしきったイプスウィッチの初勝利も印象的だった。
そして今週はこのチーム、この人の活躍抜きには語れない。帰ってきたプリマスの「元」ローニーの躍動、開幕節からシュート6本とエンジン全開のモーガン・ウィテカーもさることながら、バリ・ムンバの圧巻の一撃に新シーズンの息吹を感じた!
League One
開幕戦で7-0、しかも相手は一部で今シーズンの躍進も予想されたポート・ヴェイル。必然的な悲観論に彩られた開幕前のバーンズリーだったが、1日にしてその雰囲気は一変した。
ただ盛り上がりに水を差すのは本意ではないが、xGを見ると1ゴール程度の差しかなかったのも事実ではある。ハイライトをご覧くださればわかる通りで再現性というよりは偶発性に勝るゴールの数々だったし、「7-0」に相応しい試合ではなかった(いつも同じようなことを書いている気がする)。
それでもこれはバーンズリーへの警鐘ではなく、ポート・ヴェイルへの慰めとしてより機能するファクトだろう。ネガティヴな話題が支配して迎えた開幕戦で7-0の勝利、選手の自信にとってこれ以上の良薬はない。もちろんより厳しいテストが待ち受けるのは当然にしても、プラスにしかなり得ない首位発進だ。
心配なのは昇格候補筆頭のダービーだ。対戦相手のウィガンがどうこうではなく(彼らにとってはこの夏を経ての素晴らしくアイコニックな結果だ!)、単純にパフォーマンスそのものが昇格を期すチームのそれではなかった。
負けていたのにも関わらず残りの20分間で放ったシュートはわずか2本。失点シーンにしても後方でのイージーなエラーが絡んでおり、ポール・ワーンのチームらしくはない。しばらくの間注視が必要かもしれない。
他にはボルトンやブラックプールといった昇格候補たちが順当な勝利を掴む中、オックスフォードがアウェイとはいえ残留争い濃厚なケンブリッジに敗れる心配なスタート。同じ降格候補ではエクセターも3-0の勝利、一方でエインズワース時代からのスタイル変革を期すウィコムにとっては内容的にも厳しい結果となった。
League Two
レクサム、5失点。ノッツ・カウンティ、5失点。昇格候補双頭に並び立つ昇格組の2チームにとっては、もちろん予想だにしなかったであろう計10失点の開幕戦である。
スタンドに駆け付けたヒュー・ジャックマンがレクサムの地で目撃したのは、L2ではハリウッド級の破壊力になるかもしれないモー・イーサとジョナサン・リコの2トップだった。それでもこれをもってレクサムの守備が破綻していると断言することは当然できないし、3点奪ったことももちろんポジティヴに捉えるべきだ。
ノッツ・カウンティについてはよりエクスキューズが明白だ。事故のような2分の先制弾に加え15分にGKが退場。こんなことになってしまっては正当な評価など下せるはずもなく、完全に度外視すべき一戦である。
より驚くべきことに、もう1枠の自動昇格に強い推薦を受けるストックポートも開幕戦は負けてしまった。3チームの(ほぼ断然の)昇格候補がいずれも黒星発進、やはり計り知れないリーグだ。
彼らの波状攻撃を見事なブロックで難なく凌ぎ、セットプレイから勝ち点3を掠め取る「強い」勝ち方を披露してみせたのはジリンガムだ。こちらは私の自動昇格候補、その後カラバオではサウサンプトンを見事撃破し、前評判に恥じぬスタートを切った。
他にはフォレストグリーンを除く降格組3チームが勝利したのも一つ波乱となり、降格候補圧倒的最右翼のクロウリーも退場者を出したブラッドフォード相手に驚きの好発進。コルチェスター-スウィンドンの前代未聞とも言うべき開幕週でのピッチ水没試合延期もその発表タイミングも相まって恥ずべきものとなったが、少なくともそのおかげで次世代British God Talentスター、ウドカ・ゴドウィン・マリフの歌声が聞けたことも事実だ。
ふぅ、怒涛の開幕週だった!
今シーズンのアイキャッチはこのような形で幅広くその週のEFLの話題を取り扱っていこうと思う。ぜひ毎週お見逃しなく!
ストックポートの仲間達と、ノッティンガムに乗り込んだ日の事を思い出して泣きそうになりました。素晴らしい記事、素晴らしい体験。言葉にはできない。