11月の代表ウィーク、書いておかなければいけないことが1つある。何を隠そうそれは、前回の代表ウィーク中に起きた出来事だったからだ。
ウェイン・ルーニーがバーミンガムの監督に就任して5試合が過ぎた。就任時の展望についてはfootballistaさんに寄稿したが、そういったものを世間に発表したからには、やはり初期段階でのレビューも書いておくのが筋だと思う。正直言って気乗りはしないが、それとこれとは切り分けて考えなければいけない!
0勝1分4敗。5試合1ポイントのルーニーのスタートに、いくつかのキーワードを用いて虫眼鏡を当てていく。
①スタイルの混乱
この結果を紐解いていく上でまず大前提となるのが、当たり前のことではあるが「内容が良くない」という点だ。確かに初戦のボロ戦から5試合連続で少なくともプレイオフ進出は狙えるレベルのチームと対戦していることは事実ではある。しかし↑のハイライトを見てもらえれば一目瞭然だと思うが、相手がどうのこうのという以前にバーミンガム側のシンプルな不出来が敗戦の主要因であることを否定するのは無理筋だ。
それまでリーグトップだったxGAは一気にボトムハーフまで数値を上げてしまい、それまでの11試合でわずか28だったGKジョン・ラディのセーブ数はこの5試合だけで26を記録した。負けたのはどれも当然の結果と言っていい内容だった。
なぜここまで急速にパフォーマンスが低下したのか。その理由は複合的なものだが、やはりまず立ち寄るべきは試合に臨むアプローチの変化である。
前任のジョン・ユースティス時代、バーミンガムは一にも二にもトランジションの速さと鋭いカウンターを重視し、最前線からの緻密なプレス組織を軸にフットボールを構築するチームだった。それは取りようによっては(今回の監督交代にあたってボードから示唆されたように)「守備に重点を置いているので守備的」なスタイルと言える。
しかし別の見方をすれば、ユースティス時代のチームは「極めて攻撃的な守備」をするチームだったとも言える。昨季の3バックにしろ今季の4-2-4にしろ、まずプレスの出発点となるストライカーの動きから相手に対して能動的であることが強く要求され、かなりリスクを負ってでも前で取り切ることがチームの原理原則だった。
そのやり方が染みついた選手たちに対し、ルーニーはまず初戦のボロ戦と次のハル戦で4-3-3の布陣を組み、攻撃時両フルバックが上がる2-3-5の可変式でやや速度を落とした攻撃を志向した。しかしこのシステムに対する選手たちの理解度は酷いもので、明らかにボール保持時・非保持時を問わず自分たちの役割がわかっておらず、ピッチ上での混乱→ボールを受けたがらない姿勢が見えてしまっていた。
そのホームデビューとなったハル戦の試合後、ルーニーは「選手たちに今やろうとしていることへの意見を求めた」というコメントを発した。そして実際に、次のサウサンプトン戦ではポゼッション志向から空中戦や縦に速い攻撃の割合が増え、プレスの強度も増すことになった。
個人的にはこのサウサンプトン戦がここまでのワーストパフォーマンスだったように思う。それは試合内容の面だけでなく、ルーニーが最初に勇気をもって持ち込もうとした変革をあっさり捨ててしまったという失望も込みでのセンチメントだ。これだけの真逆と言っていい変化を志すのであればそれなりの信念を見せて然るべきだし、それがないのであれば前監督の下成功していた戦術を最初から引き継ぐべきだ(それができない理由は容易に想像できるが)。結局この試合で何がやりたいのかがどっちつかずになってしまい、ファンから見た「信じるべきもの」が何なのかを曇らせてしまったように感じる。
その後のイプスウィッチ戦は相手のオフデイと戦術的な優位性が相まって、前半からのプレスが効きに効き89分までリードを保つことができた(試合後追い付かれた原因に体力面を挙げていたが、個人的には単純に層の薄さだと思う)。しかしその翌週のサンダランドではそれがハマらず、最初の3試合よりはマシだったがまたしても完敗を喫した。
という5試合のストーリー。正直なところ5連敗しなくてよかったと言うべきで、明るい材料よりも圧倒的に不安材料の方が多い。これまでのところ新戦術は今いる選手たちの長所を引き出すどころかむしろ短所を浮き彫りにしてしまっており、例えば前体制下で不動のエースだったシリキ・デンベレは孤立を強いられる機会が多くなったことでワイドフォワードとしての輝きを失ってしまっている。キャプテンのディオン・サンダーソンもサポートの少なさから不安定さを増してしまった。
どうしてなかなか、この状況で楽観的な近い未来の予測を書くのは難しい。しかしそれがルーニー招聘の是非に直結する話ではないということも改めて強調しておく。言い訳の余地が少なくなってきているのは監督だけでなく選手たちも同じだ。実際にプレイするのが彼らである以上、新機軸を見つける作業には彼ら自身の努力も必要だ。
②選手たちに課された挑戦
①の点に関連して、ベッティング界隈の新進気鋭の評論家の1人、”Foxpunter” ことマイク・ホールデンが興味深い指摘を行った。心理学を取り入れた分析を代名詞とする彼らしく、選手たちの立場から見たルーニー就任という出来事の意味合いを論じている。
https://twitter.com/foxpunter/status/1717496223899197882
彼の指摘を大まかにまとめると、「これは選手たちにとっての大クライシスでもある」ということになる。ユースティスは就任当初から “No Excuse“ のカルチャーを掲げ、通常ではない状態・出来事が横行していたクラブ内体質の改革を目的に、なるべく選手たちがプレイしやすい環境を整備することに努めていた。もともと選手キャリアを下部リーグで過ごし、(昨季選手として在籍していた)トロイ・ディーニーと親友であることから監督に抜擢されたこともあって、選手たちと非常に近い距離を保った上で規律をコントロールするタイプの監督だ。
一方イングランド代表の歴代最多得点者で、キャリア全ての時期を一線級のカリスマとして過ごしてきたルーニーのマネジメントスタイルは、ユースティスとはほぼ真逆に置かれるものだ。そこには緊張感という一線が常に引かれ、監督と選手はかつてのような関係ではなくなる。
なぜこの監督交代が発生したか。それは「チャンピオンシップでの期待値を上回る成功」という短期的な成功ではなく、「世界にその名を轟かせる」という長期的なさらに大規模の成功を追い求める新オーナーの野心からに他ならない。とすれば、選手たちにはこの突然の戦術・マネジメント等の変更への適応という短期的な問題の他に、もう1つ非常に重大な問題が生まれる。「自分にこのクラブでの未来があるのか」という観点だ。
(それでさえ一部の選手たちにとっては非現実的だったかもしれない)「プレミアリーグ昇格」という現時点では壮大な目標も、今やクラブにとっての最終目的地ではなくなった。クラブとして目指す場所はそのさらに先。でなければユースティスを切って「名前を求める」選択などするはずもなく、その目的意識がここまで早く到来することをPLでの出場経験もまばらな今の選手たちが予測できていたかどうか。ホールデンはこれを「突然サバイバルモードに入った」と表現し、この状況でいち早くステップアップするのは自分の能力に強い自信を持って高みを目指すことができる選手だろうと予測する。
ホールデンがそれを知っていたかどうかはわからないが、実はギャリー・クックも就任当初に似たようなスタンスを現存スタッフに説いたという話がある。もう何度も紹介しているAlmajirが書いていた情報だが、彼はスタッフに対し「従業員全員は3つのグループに分けられることになる」と話したという。1つ目はこの変化をチャンスと捉え、自身及びグループが何かを成し遂げるための成長を遂げる人たち。2つ目は家族や自身の生活のために与えられた仕事をきっちりとこなす人たち。そして最後が、このグループにはもはや必要なく早く転職活動をすべき人たち。
おそらくクックの狙いとしては、こういった発言で自身のスタンスを明確にすることで、それに合わないと考える人たちにエスケープルートを提示し組織の方向性を統一することにあるのだろう。実際に聞いた話では、(前体制下でプロパガンダ的に登用を受けた)一部のファン上がりの役職付きスタッフが既に退団を決めるなどの出来事も起きているようだ。
クックとルーニーは長年深い関係にあるだけあって、こういった考え方の部分で似通ったものを共有しているのだろう。そして確かに、今よりも遥かに上の位置を目指すのであれば、このサバイバルについてくるだけの意識の高さを持った選手が必要であることは論を待たない。マンチェスター・ユナイテッドでサー・アレックス・ファーガソンの厳しさについていったのがルーニーであったように、このふるい落としが超一流の存在を見抜いていく。
③ファンの「信じる努力」
とはいえフットボールの世界にはもう1つの「当事者」がいる。ファンだ。
サウサンプトン戦でのアプローチの変更には、ハル戦でごく一部のファンが帰り際のルーニーに浴びせかけた直接的なブーイング(試合終了後すぐのその日のパフォーマンスに対するブーイングとは完全に違うことを明確にしておきたい)の存在も少しは影響したかもしれない。実際にはあのブーイングは極めて短絡的で理のない行為として大多数のファンに批判され、それの反動的にセインツ戦では何度もルーニーチャントが起きていたのだが、いつだって目立つのは少数派の狼藉だ。
フットボールクラブのファンが完全に団結することなど、一部の超特殊な場面を除けばほぼない。しかしこの夏のバーミンガムにはそれがあった。それこそあまりに惨かった前体制への反動でそれが実現し、あのユースティス解任まではそのムードが持続していた。
しかし連勝後の酷いワーディングでの解任劇、もともと敵も多くかつクックの友だちでもあるウェイン・ルーニーという後任の人選、そしてその後の5試合。今再びファンの意見にはグラデーションが生まれ始め、結論を急ぐ人とそうでない人の間に分裂が生まれ始めている。
はっきりさせておきたいのは、まだシーズンは3分の1が終わっただけに過ぎないということだ。成績を取り返す時間などいくらでもあるし、(使える資金が残っているとは思えないが)1月の移籍市場だってある。もっと言えばクックの縁故採用(とみなされるもの)を批判する人たちは前任のクレイグ・ガードナーも全く同じことをしていた、つまりフットボール界ではそれが当然のことである事実を蔑ろにしていて、人間の営みの本質を単純化している。
どんなに最初の5試合の内容が酷かったとしても、極端な話今後仮に内容がずっと上向かないのだとしても、この時点で任命責任であったり決断を求めたりする行為には1%の理もない。物事をレビューするのには早すぎる時期だからだ。
それでも、フットボールを見ているのは理知的な人たちばかりではない。それもまたフットボールの本質だ。だから来週に控える3試合、とりわけホームでの最下位シェフィールド・ウェンズデイ、22位ロザラムとの連戦は本当に重要だ。代表ウィークが挟まるのは一見朗報だが、普段練習を仕切っているとされるアシュリー・コールとジョン・オシェイの両コーチはそれぞれ代表との兼任であるため、この期間チームの練習には参加できない。しかしそんなこともお構いなしに、もしここで内容・結果が伴わなければ雰囲気は劇的に悪化し、進退を問う声も増えてくるだろう。
そして幸か不幸か、11月27日には今シーズンからの新たな試みとして行われる招待制のファンミーティングが開催される。ここには当然ギャリー・クックが出席予定だ。前体制時のような名ばかりのコミットメントからの脱却を図るイベントだからこそ、言論統制は及び得ない。その意味でhも次のウェンズデイ戦は今季の最重要試合かもしれない。
何はともあれ、次の展開を見守るしかない。今は一にも二にも結果、そんなフェーズに入ってしまった。
新オーナー体制下で迎えた初のクライシス、そこにはいったいどんな出口が待ち構えているのだろうか。
今週のEFLアイキャッチ
チャンピオンシップ:ミルウォール、思慮深きエドワーズ初陣快勝
League One:364日目、レディングの春は遠く
League Two:11連勝ストックポート、EFL記録に迫る
チャンピオンシップ
シェフィールド・ウェンズデイ 0-4 ミルウォールから振り返る。しっかりと時間をかけた任命プロセスを経てのジョー・エドワーズの就任初戦、ミルウォールにとってはこの上ないスタートとなった。
4-0というスコアラインに語弊があるのは事実だ。序盤からペースを握っていたのは間違いなくウェンズデイの方で、ミルウォールの得点シーンも全部含めて、どちらかと言えばウェンズデイ側のミスや自信の欠如がこの結果の主要因となったことは否めない。実際内容だけを見れば、両者のパフォーマンスにさほど差はなかったと言っていいだろう。
その上で、この好発進はミルウォールがラウエットの辞任後に推し進めた「正しい」プロセスの結果と断じておきたい。長く続いた現実路線に陰りが見えた今シーズン、やや偶発的な要素もあったラウエットの辞任を経て、クラブは正しいタイミングでモダンなスタイルへの挑戦を打ち出した。その牽引役としてチェルシーやイングランド代表での知見・実績を持ちつつもクラブレベルでの監督は未経験のエドワーズという人選はまさしく理想的で、その彼へのプレッシャーを和らげるために初戦を最下位のウェンズデイ、その直後に代表ウィークが挟まる絶妙なタイミングを用意してもみせた。降格の可能性が低そうなシーズンでさらにこのソフトランディング、クラブの長期的な成功への二重三重の保険がかかっている。
元々この夏に亡くなった前会長のジョン・ベリルソンを中心に、そのアプローチの堅実さや思慮深さに定評のあったミルウォールだが、そのレガシーは彼の死後も脈々と受け継がれているように見える。選手層からしてエドワーズが理想とするレベルのフットボールに到達するまでには少し時間がかかるだろうが、まずはプレッシャーを大きく軽減する結果を掴んだ。
一方のウェンズデイ、これでダニー・ルールの就任後は5試合で1勝4敗となったが、勝ったロザラム戦はもちろんとして他の4試合も十分に言い訳の利く内容だったと言っていい。さらに大きなブーストになり得る代表ウィークを挟み、パフォーマンスの大きな向上も見込めるところだ。
またしても逆転勝利、またしても2失点。低調チーム相手の連続ドロー後、イプスウィッチが辿った道のりはまたしても平穏なものではなかったが、それでも結果として彼らは勝利を掴んだ。それも、今シーズンここまででも指折りのファッションで。
まず驚きなのがポゼッションの37.8%という低さである。昨シーズンL1で完成度の高いポゼッションを完成させ、ほぼ全チームに引かれた中でそれを崩す術を見つけてから圧倒的な成績を残し始めた彼らが、今シーズンはトランジションの速さと質を身に付け躍進を続ける近況。その中でもこの数字は開幕戦に次ぐ今季2番目に低いポゼッション率で、かつxGは今季最も高い3.82。まさに「イプスウィッチ2.0」がここに完成したとでも言うべき内容だ。
遂に先発のチャンスを得たジャック・テイラーの恐るべき一撃は1月にモージーとルオンゴが両方抜ける中盤を思えばファン全員が待ちわびたニュースでもあり、ここ最近当たりが止まっていたコナー・チャップリンの1G1Aも頼もしい。失点の多さに目をつぶるわけにはいかないが、もし私がイプスウィッチのファンだったとしたら、やっぱり浮かれずにいることは難しいとも思う。
そのイプスウィッチは得失点差だけの2位。つまり首位にいたレスターが前節に続く連敗を喫してしまった。ここまでリーグでは全勝だったアウェイでの敗戦、均衡を破ったのはミドルズブラ、サム・グリーンウッドの見事なフリーキックで、結果的には2戦連続でリーズの選手がかたを付けたようなものだ。
個人的にこの試合でレスターの何が一番不安になったかと言えば、ファンの反応だ。もちろんTwitter上の意見などがファンの総意ではないことなど百も承知だが、最初にこの試合終了時のポストに対する反応を見た時、「いったいどれだけ悪い内容だったんだ」と思わずにはいられなかった。
https://twitter.com/LCFC/status/1723383563477733837
そして試合を後から振り返ってみて拍子抜けした。まず決勝点そのものからして止めようのないフリーキックだし、セニ・ディエンの再三再四に渡る好セーブがなければ至極簡単に3ポイントがレスターへと渡っていたことに疑いの余地はない。総じて、もちろんパフォーマンス的に考え得る最上のものとまでは言えないにしても、これまで彼らが勝ち点を獲得してきた形通りの試合はできていたように思う。
エンツォ・マレスカが成し遂げようとしているものの完成形を思えば、たった3ヶ月ではこれくらいの出来に終始してしまうのも十分ロジカルなことだ。その上で彼らはチャンス自体は作れているし、失点前後に渡ってあのボロの攻撃をほぼ無効化できてもいた。間違いなく8月の戦いぶりからは進歩が見え、この日得点が入らなかったことも極めて運の要素が強い。にもかかわらず監督解任が不可避であるかのような物言いをする人がいる。こういったill-temperedな声はいとも簡単にクラブを退潮に導く可能性がある。直近の成功からファン層がグローバルに拡大しているクラブであるため、「負け慣れていない」性格が強いのかもしれないが、チャンピオンシップ記録級の勝ち点ペースから少々遅れたところで何も恥ずべきことなどない。
一方のミドルズブラは連勝が止まり2試合勝てなかったところで、これ以上ない相手への勝利を掴んだ。そして連勝中際立った要素だった守備面の進歩が戻ってきた!イヘアナチョにデール・フライを、KDHにジョニー・ハウソンをそれぞれマンマークで付けることで特に前者のプレイ関与を阻止したマイクル・キャリックの采配からは、やはりほぼ守備に無関心に見えた昨シーズンからの明確な進歩が見える。このメンバーでもしっかりとチームを仕上げてくるキャリック、もう誰も彼の手腕に異を唱える人などいない。
新監督対決となったQPRとブリストル・シティは0-0のドロー。しかしホーム初采配となったマルティ・シフエンテスが(出場停止のチェアー抜きでも)やはり好内容を見せホームファンの喝采を浴びたのとは対照的に、終始攻め手を欠いた結果試合終了後には “We want our Nige back“ のチャントを浴びたリアム・マニングにとっては理想とは程遠い船出になってしまった。良くも悪くもシステマチックな彼がMKドンズで(キャリア唯一の)失敗を喫した理由は、こういったtoxicな状況に対処できる情の部分の欠如だったことは忘れてはいけない。大きなチャレンジが彼を待つ。
今週末最も驚くべき結果はもちろんカーディフ 2-3 ノリッジだ。誰が見てもデッドマンウォーキングだったデイヴィッド・ヴァグナーは、幸か不幸か解任を免れることになった。試合自体は2-1でリードしてからのカーディフに勝敗の責任があり、悪く言えば気を抜いてしまったような後半の戦いぶりがノリッジの2ゴールを生んでしまった。依然としてこれが持続可能性のある勝利には到底見えず、新SDベン・ナッパーの状況をややこしくしただけのようにも見えるが、とりあえず人が仕事を失う瞬間を見ずに済んだのはいいことだ。(試合終了後のウェバー送り出しも感動的だった)
ほか、ロザラムの佇んでいるだけの守備があったとはいえ、5-0で勝利しマット・テイラーに引導を渡したワトフォードは一時期の不振がひた隠した真の実力を発揮し始めているように見える。ストークとゴールレスを演じたコヴェントリーは先週言及した4バックへのシステム変更を実行、注目のワイドフォワードにはハジ・ライトとエリス・シムズの新加入ストライカー2人を据える実験的な布陣を組んだが、結果的にはその2人がそれぞれ決定機を外してしまった。
今週も最後はハダースフィールドの所業に触れておく。1-0、リアム・デラップのゴールが決まったのはこれら全てを経ての90+2分。正義は果たされた。
League One
今週もまた、悲劇的な試合からこの項を始めなければいけない。最後にアウェイのリーグ戦で勝ったのは2022年11月12日。「1年間アウェイでの勝利なし」の記録を免れるために戦ったレディングを待っていたのは、またしても絶望的な結末だった。
90+1, 90+5という同点・逆転ゴール。しかも最初の失点は明確なコミュニケーションミスに起因し、最後の2失点はいずれもコーナーからの流れ。まったくもって防げた失点と言わざるを得ず、試合終盤に怪我人が出たわけでもなくDFラインを弄ったルベン・セジェスの采配にファンが矛先を向けるのも無理はない。
しかし同時に、今シーズンアウェイ全敗をはじめとした種々の結果の責任を彼だけに押し付けるのにも無理がある。ただでさえ若いチーム、それを引き締めるべきベテラン勢の存在感があまりにも薄い。このそこはかとない「壊れ感」の最大の要因はそこにあると思うし、オーナーシップの状況からして楽観的な見方をすることも難しい。見るに堪えない状況が続く。
そのレディングとは対照的に今季アウェイ成績首位、5勝2分の好成績を残していたバーンズリーの旅路にダービーが土を付けた。しかも3-0、内実伴っての完勝。ベテランが並ぶラインナップもまさしくポール・ウォーンここにありといった感じだ。
ダービーは明らかに一時期の低調が底を打ったと見ていいソリッドなパフォーマンスだ。思えば10月28日、スティーヴネッジとのアウェイ戦に敗れた後にファンが直接的にウォーンの退陣を求め、キャプテンのコナー・ハウラハンがスタンドまで赴き直接対話した出来事、そしてその直後にボード陣が発表した「ウォーン支持」を明確に打ち出す声明が一連のトリガーとなった。あの状況下で即座に監督への信頼を具体的な言葉で明示するという行為はまさしく言うは易く行うは難しで、その勇気がほぼ即座のアップターンを招いたのだから、フットボール界もまだ捨てたものではない。ロザラムの監督職が空いたが、しばらく余計な心配をする必要もないだろう。
首位ポーツマスはこれまでの勝ち点獲得パターンを相手にやられてしまい、後半追加タイムの同点ゴール被弾で2-2の引き分け。7年連続で敗れていた「ホームのチャールトン戦」で勝ち点を取れただけマシなのかもしれないが、それ以上に守備の、というかチーム全体の大黒柱と言っていいCBリーガン・プールがシーズンアウトの怪我を負ったことが何よりもの痛手になってしまった。
監督不在となったオックスフォードはアウェイで難敵レイトン・オリエントに逆転勝ち。別にこれまでも悪かったわけではないが、2ゴールのルベン・ロドリゲスがいよいよもう一段上のギアを見せ始めている。退任発表後、インスタ上でのマニング批判が話題となった彼だが、もしかするとこれが更なる一皮をむくきっかけになったのだろうか。
下位に目を向けるとフリートウッドがリー・ジョンソン就任後の上昇を印象付ける3-0勝利、エクセターは開幕直後が嘘かのような9月以降の転落ぶりで完全に残留争いに巻き込まれそう。複数失点が続いていたノーサンプトンもバートン相手に貴重な完封勝利を飾った。
League Two
なぜこのチームの存在がもっと幅広く取り上げられていないのだろうか。なんともはや11連勝、ストックポートの怪物じみたランが続いている。
成績自体は下降気味とはいえパフォーマンスそのものの下降は顕著には見えないスウィンドンも、ダン・ケンプとジェイク・ヤング(一時期完全に自信を失っているように見えたが、幸い立ち直ったようで何よりだ)というスターマン2人の得点で決して悪くない戦いを見せた。それを受け止め切った上での11連勝、記録を見る限りではあと1つで近代EFLの新連勝記録。横綱相撲で勝ち続けているストックポートの凄みは完全に過小評価されている。
この4ゴールの得点者も秀逸だ。アイザック・ウラウフェでもなければ、アントニ・サーセヴィッチでもない。当然怪我をしているルイ・バリーでもない。既にその実力を嫌というほど知らしめている前線の主力に頼らずとも、帰ってきたカイル・ウートン然り、意外にもこれが移籍後初ゴールだったオーディン・ベイリー然り、「脇を固める」という言葉では役不足なほどのタレントがひしめく。
現状、このチームの負け筋を思い浮かべることはどの試合でも難しい。このペースに入る前にスタッツ最強チーム(実際未だ無敗でもある)マンスフィールドとの対戦を済ませてしまっていることが残念でならないし、ならばどのチームがステップアップできるのかに大きな注目が集まる。こういったチームの存在がリーグを格段に面白くする。
自動昇格ラインを挟んでの直接対決となったクルーとノッツ・カウンティの一戦は、間違った理由でヘッドラインを飾ることになった。
試合を90分通して見たわけではないため詳しい言及は避けるが、(度重なる)試合中の不利な判定によってフラストレーションを溜めていたアウェイファンが(主審の負傷で直前に交代出場した)第4審による後半追加タイムのPK判定に激怒し、目の前にいたラインズマンに暴力を揮ったのだ。結局ラインズマン同士でサイドを入れ替え試合は完了したものの、試合終了後には警察までピッチ内に入り自体の収束を図ることになった。
それまでの経緯が何であるにせよ、最終的に起きた出来事が心から恥ずべきものであることに変わりはない。ここに何もコメントを付け足す必要はないと思う。
中下位では3つの印象的な結果があった。
まずは近10試合が1勝2分7敗だったグリムズビーがPO圏のモアカムを破った一戦。ポール・ハースト解任という心情的にも非常に難しい決断を下した直後、今シーズンの全3勝を挙げているホームではあったが、少しでも新監督のプレッシャーを軽減する目的においては今シーズン最大の勝利と言っていいだろう。レフトバックの位置に戻ってきたアントニー・グレノンの好パフォーマンス(1Aも記録)も大きな要因となった。
こちらは降格ラインを挟んでの試合、トランメアが長いトンネルを抜け出す3-0の快勝をフォレストグリーン相手に収めた。1ヶ月以上に渡る暫定監督生活、客観的に見ての正式監督就任に足る材料を「出させようとした」ボードの必死の試みにもかかわらず大した結果は出ず、業を煮やしてのその中での強引な昇格となったナイジェル・アトキンスにとって、これが待ち望んだ就任後初勝利。一方のFGRはトロイ・ディーニーがいるチームとは思えないほどに反発力のなさが目立ち、魂が抜けたような戦いになってしまっている。
そしてウォルソールとハロゲイトの一戦。これはスタッツを見てもらった方が早い。
何もこの試合に限った話ではない。今シーズン既に7勝を挙げミッドテーブルに身を置くハロゲイトだが、ほぼ全ての勝利がこんな感じだ。ここまで結果だけが上振れし続けているチームも珍しく、ある意味今後の動向に注目せざるを得ない。