https://www.bcfc.com/news/all/club-statement-juninho-bacuna-1
正直なところ、今回ほど書いていても考えがまとまらない記事は過去なかったように思う。日常生活を営みながらもずっとこのことを考えていた。考えても考えても、思いがまとまらない。
それはあまりにも初めての経験だった。何を語りかければいいのか、何を言ってはいけないのか、よもや何もしてはいけないのか。イギリスに来ていろんなことを学びたいと思っていたが、これは明らかに日常には不必要な問いかけだ。
正直なところ、答えは出ていない。それでもまず第一義として、経験したことをどこかに書き残しておく必要があると思った。なので書きたいと思う。
「自軍のファンから人種差別チャントを受けた」試合直後、ジュニーニョ・バクーナに会った時の話だ。
火曜日、10月初勝利を4-1の派手なスコアで飾った試合の後、私は1G1Aの活躍を見せた三好康児と話をするために選手駐車場に向かった。
ミッドウィークの試合直後、もう時計の針は22時を過ぎようかという時間でもあり、いつもに比べて人の数はまばらだった。それでもそれなりには家族連れなどがいて、別にサイン等が欲しいわけではない私は、端っこの方で近くにいた人と話して過ごしていた。
スマホに通知が入ってきた。クラブが出した声明、そこにはバクーナが人種差別の被害を試合中に訴えた、ということが書いてあった。
確かに試合中に変な場面があった。80分は過ぎていた時だと思うが、試合の終盤で相手のコーナーキックになった際、審判とやけに長く話し込んでいたバクーナが一旦ベンチの方に戻り、そのまま交代するでもなくまたピッチに戻る。そしてその直後、最近出場が続いていたわけでもなくこの日出来も良かった彼が、しかもポジション的には異なるブランドン・キーラと交代。それなら中盤のどちらかを下げてあげればいいのに、と思っていた。
声明によると、まさにこの時バクーナはファンからの人種差別チャントを耳にしていた。当初報告をためらっていたという彼だが、相手DFトム・エドワーズが何度も翻意を促し(本当に立派な行動だ)、結局審判にこの件を伝えることを決めたのだという。
最初声明を見た時、半ば反射的に「0-3で負けていた相手のファンがやったんだ」と思い込んでしまった。もちろん誰がやろうが人種差別ほど言い訳の余地がない行為はそうないし、この時感じた怒りはそれ相応のものだったことに変わりはない。隣にいた高校生ぐらいの青年との会話でも当然それ前提で話していた。話してしまっていた。
バクーナはいつも駐車場に現れる側の選手なので、何か彼に言葉をかけたいと思った。彼がこのクラブに来て1年半以上が経つ。大好きな選手だ。大好きな人柄だ。どうにか彼の傷付いた心に少しでも癒しを与える、そんな言葉をかけたかった。
本当に、本当に、月並みな言葉しか出てこなかった。
この時ほど自分の無力さを感じたことはない。“I support you“, “I love you“. 何も言わないよりはマシなのか、でもそれすら自信が持てない。
これは英語力の問題ではない。自分の人間としての経験値不足でしかない。人種差別という心の底からの憎悪を覚える事態に直面して、それに対処する手立てを自分は何一つ持っていない。恥ずかしくて、悔しくて、どうすればいいかわからなかった。
バクーナがやってきた。しかし警備スタッフが彼は今日サインを行える状態ではないと説明して、いつもなら笑顔で写真撮影などにも応えている彼は何とも言えない表情で通路を過ぎていった。
声をかけるチャンスはあった。車に乗るまでも含めて、合計で2分ほど彼はその場に留まってはいた。もちろんそこにいた全員が彼に可能な限り暖かい言葉をかけていた。というか叫んでいた。私もそうだ。
しかしここに、もう一つの後悔が残った。私(たち)はずっと、「件のチャントはハダースフィールドのサポーターが発したもの」と思ってしまっていた。
正直なところ、それを知る手立てはかなり少なかった。出来事が起きたスタンドにいるか、わずかに見られたSNS上の投稿を見る以外に、それが自軍ファンからのものだったと知る術はなかったように思う。
それでも、その無知ゆえの言葉が彼の心を刺激していなかったか、今でも心残りがある。なぜあの時もっと考えられなかったのか、自分自身に憤りを覚える。私が辛うじて発することができたのは前述した短い、普通の言葉でしかない。そんな一般論でしかない言葉が、その時の彼にはどう聞こえたのだろうか。
その後三好や他の選手とも話し、日付を回ったくらいの頃に家路についた。帰路、あの後に飲んだ酒が抜けてくるに連れて、バクーナのことがどんどん頭によぎってきた。
「今日彼はなんて謂れのない目に遭ったのだろう」、そのバクーナを想う気持ちがあふれ出てくるにつれて、その後幸運にも直接彼を励ますチャンスに恵まれた自分の不甲斐なさに腹が立った。
あの時どう行動し、何を話せばよかったか。その答えは未だに見つからない。さらに言えば、今後もそうだと思う。あんな場面には二度と立ち会いたくないし、いつもニコニコしている彼のあの表情が忘れられないからこそ、人種差別という行為の愚かさは十分すぎるほどに理解できた。
バクーナから笑顔を奪った、あの試合後の駐車場にいた子どもたちから思い出を奪った、ファン全員から快勝の喜びを奪った。そんな1人の馬鹿者の行動が、本当に許せない。
金曜日、ウェストブロムとのダービーマッチで、バクーナは三好が奪ったPKのキッカーに立候補した。決めた。耳に手をやり、何かを訴えていた。
心から、彼のことを誇らしく思った。
戦いは続いていく。ピッチ内でも、ピッチ外でも。
そんな彼らのために一個人として何ができるか。私の永遠のテーマであり続ける。
今週のEFLアイキャッチ
今回はミッドウィーク分も込み!ということで、連勝・連敗のチームを基本に見ていきます。
チャンピオンシップ:若き指揮官の逆襲始まる
League One:Finally, ポーツマスの1年?
League Two:また新たなスコアライン…
チャンピオンシップ
週末・ミッドウィークと連勝したチームは7つもあったが、その中でも今週のスタート地点とすべきはミドルズブラ以外にいない。先週の初勝利から一気の3連勝、いよいよ火が付いたのだろうか。
実のところ、その内容自体に大きな変化があったわけではない。ワトフォード戦は枠内シュート3本で3点、(“Erolbulution” 渦巻く)カーディフ戦も後半にギアを上げたが、それまでの内容はほぼ互角かやや劣勢といったところだった。
これはこの2試合が不出来だったというよりも、どちらかと言えばそれまで勝てていなかった不運さを指し示していると見るべきかもしれない。今シーズン初めてリードしたのが2週間前のセインツ戦、そんなほぼ常時同点かビハインドで戦っていた状況を思えば、間違いなく彼らのアンダーラインスタッツには一定の欺瞞が含まれている。だからといってチームの出来が「悪い」のかと言われればそれも違い、順位表としては収まるべき位置への収束が始まったと考えるのが妥当だ。
個人面に注目すると、何とも嬉しいのがジョシュ・コバーンの活躍である。昨季はブリストル・ローヴァーズで目を引く活躍を見せた若干20歳のビッグマン、こういったアカデミー出身の高いポテンシャルを持つ選手の台頭こそ、多くのスターが抜けてしまったボロのようなチームには不可欠な要素だ。
降格圏からの3連勝と言えば、スウォンジーも忘れてはいけない。勝ってもなおブーイングが飛んだ2週前のシェフィールド・ウェンズデイ戦を経て、水曜日ノリッジに勝った後、マイクル・ダフに飛んだのは歓声以外の何物でもなかった。
このアップターンに際して、彼が最近施した3バックから4バックへの変更に触れておく必要がある。チェルシーからのローニーバシール・ハンフリーズをレフトバックに置き、ピッチ上にはほぼ4人のストライカー(カレン、ロウ、パターソン、イェーツ)に加えチャーリー・パティーノが供給役となる体制が確立した。
その結果ミルウォール戦ではシュート本数こそ7本ながら枠内5本での3得点、ノリッジ戦ではシュート23本を放ち内容で圧倒しての2-1勝利。ファンが求めた攻撃的な姿勢をリスクを背負って取り戻し、危機を脱したように見える。
逆に連敗を喫したチームの中では、現行リーグ内では最長の4連敗となったブラックバーンが興味深い姿を見せる。
なぜ2週間前の試合からハイライト動画を貼ったかと言えば、この3試合連続で対戦相手の監督が「今シーズン最も難しい試合(相手)だった」という趣旨のコメントを残したからだ。
しかも最初の2つはイプスウィッチとレスターである。結果だけを見れば共に4失点、またその後のコヴェントリー戦は一転しての完封負けだったが、連敗しているのに相手方からこれほどの称賛を受け続けるチームは本当に珍しい。それでも結果の代わりに負け方の新たなバリエーションばかりを積み重ねているのだから、フットボールはわからない。
こうなるとヨン・デール・トマソンが示していく指針に注目が集まる。この不安定さの要因があまりにも無鉄砲な守備面の構築にあることは明らかで、その改善はオープンな展開でこそ輝く攻撃面の魅力維持と相反するものになるかもしれない。結果として負け続けていることは確かだが、一方でファンからの不満はそこまで溜まってもいない。彼自身のジョブステイタスには直近の心配はなく、ならば第三者としてはもう少しこの形の成熟に努めてほしいのだが、経過を見守る必要がある。
そしてワトフォードとシェフィールド・ウェンズデイ、共にオーナーによる異様な動きが話題を呼んだ両チームについても触れておこう。
火曜のウェストブロム戦敗戦後、ヴァレリアン・イシュマエルとその選手たちがロッカールームから出てきたのは、試合終了から1時間以上が経った後だった。彼曰く、「1人1人の選手に言い訳を禁じ、今の状況に陥っている原因をどう思うか聞いていた」のだという。
開幕からはまだ10試合程度の段階、しかも週中の段階で20位という状況で、ワトフォードはイシュマエルに契約延長という「評価」を与えた。確かにワトフォードの内容の良さはこれまで何度も触れてきた通りだが、最近では前向きさに欠ける守備面の出来など粗も目立ち始めていたのも確かで、タイミングとしては実に奇妙だ。
Twitterにも書いたが、これはワトフォードのボードによる非常に内向きな決断だと思う。「(これまでの反省もあってか)最初の手段に解任は選びたくない」が、「内容はいいから結果は早く欲しい」。その末に、新たにプレッシャーを与える手段として「契約延長」が選択されたように見える。
もちろん過去の悪評と高まるファンからのプレッシャーに対処する手段として、という側面もあるのだろう。ただ重要なのはクラブ文化の本質を変えることであって、今回の決断からはその変化を伺うことはできない。もし本当に「変わった」のだとすれば、直後に監督が選手たちを1時間ロッカールームに軟禁するようなことは起こり得ないのだから。
開始3分のコーナーで相手の最長身選手をどフリーにして、その数分後にリーグ屈指のワイドFWジャック・クラークに砂漠ほどのスペースを与える。このサンダランド戦の開始数分の出来を見るだけでも、シェフィールド・ウェンズデイが抱える問題の深刻さは明らかだ。
結局チスコ・ムニョスは妥当にも、今シーズンのチャンピオンシップ解任第1号となってしまった。
もはや時間の無駄だった。ほぼモチベーターとしての側面オンリーでワトフォードで昇格を果たした彼を、よりにもよってあの超人格者ダレン・ムーアの後任として招くという決断は、やはりリスキーでしかなかった。戦術面の多様化が進みレベルが上昇の一途を辿るチャンピオンシップにおいて、彼の出る幕はなかった。
加えて乱心を続けるオーナーの存在である。デフォン・チャンシリについてはTwitterでも散々書いているので今さら付け足すこともないが、次の監督人事も含め、とにかく心配なウェンズデイの現状である。
League One
まだ10月が始まったばかりの段階とはいえ、今年もこのクラブに大きな期待が集まる序盤戦。首位を走るのはポーツマスだ。
7勝のうち5勝が1点差ゲーム、もっと言えば直近の4連勝は全部それでもあり、その前のダービーとの1-1ドローでは95分の同点弾。この強さを定義する上でまず第一義となるのは「負けない強さ」である。
今年の1月に就任して以来、ジョン・ムシーニョは37試合でたった4敗の堂々たる成績。昨季は最前線コルビー・ビショップにかなり依拠していた攻撃陣にも徐々にパターンが見え始めたが、それ以上にこの好調を支えるのはリーグ最少失点タイ&2人で既に4ゴール、リーガン・プールとコナー・ショネシーの新加入コンビが組むCB陣だ。
どうしても昨季のプリマスやイプスウィッチのようなチームと比べるのは現状まだ酷だが、今シーズンのこの顔触れであれば、少なくともタイトルに挑戦する資格は必ずある。この後しばらくの対戦カードも比較的楽だ。
そのポーツマスを1試合未消化の1ポイント差で追うのはムシーニョの古巣オックスフォード、そして彼らもまた、現在の指揮官リアム・マニングの魔法に魅了される日々を過ごす。
ミッドウィークはまあ勝って当然の相手ではあったが、その前の土曜はスティーヴネッジ相手にアウェイで1-3の勝利。あるいは今季L1で現状一番の難所と言っていいラメックスも、彼らを止めることはできなかった。
この一戦、マニングはリーグ近7試合6勝だった中でも、スティーヴネッジ対策にシステムを弄ってきた。その結果左ウイングで起用された本職レフトバックのグレゴリー・レイが2ゴール、見事という他ない。昨季のMKドンズでの失敗、そして途中就任オックスフォードでの見た目は映えない結果で評価を落とした彼だが、今シーズンはそれを補って余りある復権を見せるここまでとなっている。
その他の連勝はボルトン、ノーサンプトン、そして最下位にいたフリートウッドの3チーム。
一方連敗となった中では、やはりチェルトナムが未だ無得点。その中でダレル・クラークという後任を確保できたのは願ってもない幸運と言ってよく、少しだけ残留の望みが繋がった。
League Two
まず無視できないのは土曜の上から5行目だ。「珍しいスコアラインコレクション」、今シーズンだけで何度目だろうか!
5-4。首位ノッツ・カウンティ、10試合目にして今季2度目の5失点。今季3勝の21位コルチェスター、これが今季2度目の首位撃破。奇妙なゴールの連続、奇妙な結果、これぞLeague Two、フルスロットル!
開幕のサットン戦に続いて退場者を出しての5失点、それでもノッツ・カウンティの持ち味は十分に出た試合だったように思う。何せポゼッション系スタッツは軒並みリーグトップ、ほぼ「1チームだけ違うことをしている」と言っていい戦いぶりを続ける中では、比較的ローコストなトレードオフとしてこういった試合も起こり得る。
その証拠にミッドウィークには現状自動昇格争いの強力なライバルとなりそうなスウィンドンに3-1で勝利。間違いなくL2最強の攻撃力を持つ彼らを1失点に抑え込み、前節が良い意味でまぐれだったことを示した。
1週間を通しての最大のサプライズはサルフォード以外にない。ここまで「期待値に対して」、ですらなくGeneralな印象でリーグ最低クラスのパフォーマンスに甘んじていたところ、もちろん今シーズン初となる連勝。もはや続投していることが不可解な域に入っていたニール・ウッドにとっては、相手はいったんさておくとしても、心からの安堵の一瞬となったことだろう。
その一方で今週は2人の監督がリーグを去った。ブラッドフォードの監督に就任以後文字通り何も示せていなかったマーク・ヒューズはいいとしても、まさかこの段階でジリンガムがニール・ハリスに見切りをつけるとは思わなかった。
今シーズンの退屈な内容連発での8位は一旦置いておくとしても、彼には昨シーズン後半の快進撃の貯金もまだ十分に残っていると思っていたし、今の戦いぶりについてもアイデアを出し尽くした末のものだったようには見えない。それでも抑えきれないほどのファンの不満だった、ということなのかもしれないが、これが今後どう行く末を左右するのかはまったく不透明だ。
これでブラッドフォード、ジリンガムというL2では比較的上位の規模・予算を持つ両クラブのベンチが空いた。在野の監督以外にも例えばクロウリーのスコット・リンジーのような監督へのアプローチも容易に考えられ、一波乱ありそうだ。