「FFPのせいでつまらない移籍市場になった」。この冬の移籍市場を振り返る上で盛んに使われたナラティヴも、EFLを見ていればそんな悲しいことを言う必要はない。
くだんの例に漏れず各クラブがそれぞれの話題を振りまいた1月。そんな移籍市場をいくつかの論点から振り返る。
各リーグごとの目立ったチーム
まずチャンピオンシップではブリストル・シティに目が行く。ウィンドウ序盤にスコット・トゥワインを確保した時点から既にボードと監督の間での意思疎通の良好さが伺えたが、そこからさらにギアを上げることになるとはなかなか想像できなかった。
完全移籍に移行したテイラー・ガードナー=ヒックマンも(タイミングはちょっとよくわからなかったが)当然ポジティヴな補強で、デッドラインデイに取ったマックス・バードもこの1年半の間ずっとチャンピオンシップへの移籍が熱望されていた明らかな実力者。さらに何にも増して、オルダーショットから取ったジョシュ・ストークス!わずか1年の内に7部からチャンピオンシップまで駆け上がるというコンテクストもさることながら、それ以前に純然たる実力でNL内でかつてないような評判を得ている19歳を即座に確保した嗅覚が素晴らしい。
この内バードとストークスは夏までローンバックとなるが、おそらく昇格も降格もほぼ可能性がなく、チームとしてもリアム・マニング体制の最初期ということを考えれば、それによって移籍金が安くなったであろうことを含めて良い取引だ。何より獲得選手全員が若く今後のリセールヴァリューも見込めるという点で確固たる戦略が伺える。100点をつけてもいいウインドウだろう。
またミドルズブラも勝ち組の一つに見える。夏に100万ポンドで取った準レギュラー格のモーガン・ロジャーズを1600万ポンドで売却、さらに同ポジションの代役として上位互換とすら見ていいフィン・アザーズを(同じクラブから)200万ポンドで早々に確保していたのも完璧だ。
良くも悪くも目立ったのはハルの補強。ファビオ・カルヴァーリョ、ライアン・ジャイルズ、アナス・ザルーリー、アブドゥルカドゥル・エメルとネームヴァリューだけで見れば群を抜いて素晴らしい新戦力の顔触れだが、ほとんどがローンなのも気になるし、何よりポジション的な意味で被りまくっている。スターマンのジェイダン・フィロジーンが左ウイングの選手であるにもかかわらず全く同タイプのザルーリーをウインドウ終盤に取り、それ以前に攻撃的LBのジャイルズを、さらにCAMではあるが左に寄ってくる傾向のあるカルヴァーリョすら取っている。財務状況的にもかなり無茶な賭けをしている点を含め、計画性のなさが心配だ。
L1ではポーツマスのクレバーさが目立った。カラム・ラング(←ウィガン)、オーウェン・モクソン(←カーライル)、トム・マッキンタイア(←レディング)と、移籍金を支払って獲得した3名はいずれも前所属クラブで中心格だったがそれぞれの事情で安価での放出を余儀なくされた選手たちだ。さらにスターローニーだったアレックス・ロバートソンの負傷を受け、同ポジションのマイルズ・パート=ハリス(←ブレントフォード)をすぐに取ってきたのも賢いオペレーションだ。計画性と強かさという点で他の追随を許さなかった。
明るい話題ではないがレディングにも触れなければいけない。前述のマッキンタイアをはじめトム・ホームズ(→ルートン、夏までローンバック)、ネルソン・アビー(→オリンピアコス)、キーラン・ヴィッカーズ(→ブライトン)といった主力たちをタダ同然で放出することになってしまった。マッキンタイアの移籍金ですら先日(観客の抗議の件で)受けた罰金をカバーできないという信じ難いファイアーセールぶりで、さらにこれらの交渉については監督のルベン・セジェスやSDのマーク・バワンすらも知らない間に行われていたというとんでもない話もある。とにかく悲しい状況としか形容しようがなく、一刻も早いクラブ売却成立を祈るしかない。
L2ではモアカムが「ローニー5人を返却→新たにローニー5人を獲得」というあまりにもせわしない動きを見せた。返却された選手の中にはチーム得点王のマイクル・メロン(→バーンリー、リコール)ら超のつく主力もいて、さらに最終的にはスターマンのアダム・メイヤー(→ミルウォール)も売却することになり厳しい状況が予想されたものの、結果的にはジェド・ガーナー(←バロウ)が既にストライカーとしてレギュラーを獲得するなど一応の穴埋めには成功した。このクラブも以前から深刻なオーナーシップの問題に悩まされているが、監督のジェド・ブレナン以下現場スタッフの頑張りには頭が下がる。
スウィンドンはEFL全体を通して見てもこの1月に最も弱体化したチームかもしれない。広く語られてきたスーパーローニー2名、ダン・ケンプ(→MKドンズ)とジェイク・ヤング(→ブラッドフォード)をにべもなく即リコールされ、さらにRBとしてはリーグ内でも傑出した攻撃スタッツを残していたルメーオ・ハットン(→ジリンガム)、実績あるベテランのリアム・キンゼラ(→チェルトナム)の2人まで放出する羽目になった。ただ最終的に移籍金制限までかけられるバッドオペレーションがあった割に10名の選手を取れたことは評価すべきで、その中にはポール・グラッツェル(←リヴァプール)やショーン・マッガーク(←リーズ)といったアカデミー年代での活躍を見せてきた興味深い名前もある。一応の体裁は保ったと見るべきだ。
「提出ボタンの押し忘れ」
最も恥ずべき移籍市場を過ごしたのはチャンピオンシップのブラックバーンだ。
まずキャプテンのルイス・トラヴィスのイプスウィッチへのローン放出から始まった1月、思えばこの時からヨン・デール・トマソンはクラブのオペレーションへの不満を隠そうともしていなかった。主力ローニーのジェイムズ・ヒルをリコールされ、ほぼ既定事項だったアダム・ウォートンのクリスタルパレスへの移籍も無駄に時間をかけ一旦破談寸前になりながらもデッドラインデイに成立(そのおかげで移籍金は及第点以上だったが)。その代わりに取ってきている選手たちの顔触れもタイプ的にはかなり違い、単純な戦力の下げ幅という点で残留争いのチームとしては相当な痛手を負った。
それに輪をかけて起きてしまったダンカン・マグワイアの移籍騒動である。
まずローン移籍の合意後、マグワイアがメディカルチェックのためにアメリカからイギリスへと向かう飛行機に乗っていた最中に一旦移籍が破談に(ウォートンの移籍が流れかけたための玉突き)。その翌日のデッドラインデイに再び話がまとまり何とか期限時間内に手続きを行ったものの、「ドキュメントの提出時に誤ってSaveボタンを押していた」というあまりにも初歩的なヒューマンエラーでEFLからの承認を得ることができなかったのだ。
MLS1年目で大活躍を見せいきなりの欧州ステップアップを掴みかけた彼の心情を思っても何ともいたたまれない。そして何より、ブラックバーンがこの類のミスを起こすのはこれが初めてではないどころか、文字通り2年連続で同じミスをしているという点でプロ意識の欠如を断罪せざるを得ない。昨シーズンのルイス・オブライエンもそうだったが、このどうしようもない不注意一つで選手のキャリアパスが大きく変わってきてしまう。ミスが起こるのは最悪仕方ないにしても、絶対にそこから学ばなくてはいけない。
これら全ての状況が重なった結果、最終的にはヨン・デール・トマソンの辞任というサイドエフェクトまで引き起こしてしまった。クラブ内での約束が守られない、外部とのオペレーションでも次々にトラブルを起こす。このクラブに巣食う根深い問題がはっきりと露呈した1月になった。
グローバルEFLファン
この冬に最もEFL界隈を賑わせたクラブの一つがラツィオだ。え?
まずはジャック・クラークに始まり、次にジョナサン・ロウ、そしてモーガン・ウィテカー。ついでにデッドラインデイにはEFL卒業生ライアン・ケント(レンジャーズ)にも声をかけていたらしく、さらにはなんと移籍市場終了後にも今夏のジョーブ・ベリンガム獲得への関心が報じられるなど、もうとにかくEFLのスターマンたちへむやみやたらにオファーをかけ続ける異様な移籍戦略を見せた。
少し調べた限りでは特に彼らの意思決定層にEFLとの関わりが深いと見られる人物はおらず、考えられる可能性としてはマウリツィオ・サッリがイングランドにいた時に人知れずEFLファンになっていた、くらいなものだろうか。
正直なところプレミアリーグ発の移籍金インフレの波はもうチャンピオンシップには到達しているように思うし、もはやアレックス・スコット→アダム・ウォートンの流れが確立した部分として、チャンピオンシップのスーパースターであれば2500万ポンド付近が設定価格になりつつある。しかもリスクのある国外移籍という点も重なれば、海外のトップクラブがチャンピオンシップに目を向けるのは決して得策とは思えないのだが、ラツィオにはラツィオなりの考えがあるのだろう。
この必死な取り組みがいつか実を結ぶのか。なんともEFLっぽい奇妙な現象だが、彼らの動きにも今後注目する必要がある。
今週のEFLアイキャッチ
チャンピオンシップ:降格圏から5ポイント圏内に6チーム、残留争いツイストの兆し
League One:史上最も惜しいハットトリック未遂?テロ・アースゴーアのステップアップ
League Two:育成→尊重への方針転換を経て、サルフォード逆襲の時
チャンピオンシップ
土曜日までの11試合ではなんとドローがゼロ。夢にまで見た完全決着ウィークエンドまであと一歩に迫った今週のチャンピオンシップだったが、やはりというべきか、最後の最後にノースイーストで1-1が待っていた。残念!
今週は残留争いからスタートしよう。アウェイで勝ったQPR、ホームで負けたブラックバーン、双方の見通しに大きな影響を与えかねないイーウッド・パークでの直接対決がその出発点となる。
プロ初ゴールが決勝点、デッドラインデイに加わったばかりのジョー・ホッジが生み出したコンテクストは言うまでもなく美しいものだったが、結果だけを見れば一時期失速しかけていたQPRがここに来て3試合7ポイントというリターンを手にしたことがそれ以上に大きい。リンドン・ダイクスが “Lyndondykeski“ からの華麗な転身を遂げる10番の役割にポジションを下げ、その後釜としてよりターゲットマンに特化した能力を持つミヒャエル・フライを獲得。そのフライのデビュー前になんとか爪痕を残そうと1トップで先発したシンクレア・アームストロングがいくつかの際立ったプレイの後に決勝点をアシスト。歯車が噛み合い始めた。
以前にも書いたことだがシフエンテスの就任以後オープンプレイでのxGAはなんとリーグ2位。ほぼ無に等しい状況から2月初頭の段階でここまで持ってきた彼の仕事はまさに驚異的と言う他なく、残留に向けての見通しを完全に立てた。ストーク、ロザラムといった相手が見える近々の対戦相手を考えても、一気に降格圏の壁を突き破る時がやってきたのかもしれない。
対して、である。悲惨という言葉を使う以外にない状況だ。
https://twitter.com/BBCLancsSport/status/1753846897842745610
ヨン・デール・トマソンの悲哀に満ちた表情と語り口が見る者の同情を誘う。前代未聞とも言うべきクラブ側からの試合前会見出席阻止、そして試合後の堰を切ったかのような不満爆発。誰がどう見ても、彼のブラックバーンでの時間は終わってしまった。
この夏、親会社Venky’sがインド政府との争いに巻き込まれ資金問題が発生したことは広く知られる通りだが、その時に突如出たトマソン辞任の噂はもしかするとクラブ側から出た話だったのだろうか。「昨夏にフリーで退団するよう要請された」という話は些か衝撃的で、そんな中でシーズン中盤までは高いレベルのパフォーマンスを維持させていたのだからさらに驚きだ。
しかし前述の通り、この1月には許されざる移籍市場を過ごすことになってしまった。
こちらもストーク、バーミンガムという勝ち点で並ぶチームとの対戦が直近で控える中でのこのゴタゴタっぷり。リーグ最多失点の守備陣もこれ以上の手立てを持っているようには見えず、今のリーグ内では一番のクライシスクラブかもしれない。今のままでは残留争いは避けられない。
サウスヨークシャーダービーで21位v23位。勝ち点差は5。シーズンも残り3ヶ月を切った今なら文句なく「6ポインター」の言葉を使うべき一戦、待っていたのは驚きの結果だった。
ハダースフィールドをこれ以上なく勇気づける4得点だ。傍目には疑問の残るプロセスを経てのダレン・ムーア解任後の初戦、暫定指揮を執ったジョン・ワーシントンがどれだけの野心を持っているかは不明だが、少なくとも見栄えという意味ではオーナーが求める派手さに存分に応えてみせた完勝劇となった。冬の新戦力4人(+ローンバックのスペンサー)がスタメンに並ぶ中で、点を取ったのはピアソン、コロマ×2、トーマスといずれも既存の選手たち。さらにベンチに追いやられたベン・ワイルズの気迫溢れるプレイも光り、実利的にも精神的にも大きすぎるこの勝利に花を添えた。もし負けていればQPRと入れ替わりで降格圏入りになるところだったが、一旦は土俵際での踏ん張りを見せる。
シェフィールド・ウェンズデイのファンにとっては再び希望を失いかねない2024年の滑り出しだ。何せここ4試合で10失点、まだこれまでの試合には言い訳の余地もあったが、この試合に関して言えば後半の出来は到底許容しかねるレベルのミス連発だった。68分に先制を許してからの12分間での4失点。しかもその大部分が自ら責任を負ってのもの。勝てるわけがない。
ダニー・ルールがより自身の戦術に即した選手たちを集めることが期待されたこの冬だったが、終わってみればなんとも微妙な印象が残る。この日即デビューを果たしたデッドラインデイ補強のクリスティアン・ペデルセンは「史上最悪の初戦」との評すらあったほどの出来で対面のソルバ・トーマスをただ楽しませていた。依然としてこき下ろすには当然早すぎる時期だが、一時期の論調からは確実にトーンダウンせざるを得ない残念な出来が続く最近のウェンズデイだ。
ファンからの慢心としか形容しようのない奇妙な批判に静かな怒りの声を上げた直後、今シーズンの最多得点差記録を更新する勝利を見せつけたエンツォ・マレスカとレスターにはまず素直な称賛が贈られて然るべきだ。ストーク相手にアウェイで0-5勝ち、つまり(これまでの最多得点差だった)プリマスに4-0で勝った時と同じくスティーヴン・シューマッカーのチーム相手ではあったのだが、フットボールが機械によるスポーツではないからこそこの勝利には意味がある。
30試合で72ポイント。2位に9点差を付けてリーグトップの64ゴール。客観的に見てこれで「スタイルがつまらない」とか「将来性がない」とかまず文句をつけたがる人は根本的にスポーツ観戦に向いていないし、今季バーンリーがプレミアリーグで苦戦する以前にはまったく出ていなかった類の批判をレスターに向けるのは些かクレバーではない。今シーズン何度か書いてきたが、時としてこういったあまり一般的ではない外的要因に道を塞がれかけてきた中でも、マレスカが示し続けているブレない姿勢には感心する。この継続力はより大きな舞台で成功を収めるためには必須のスキルだ。
2週連続でイプスウィッチには実にフラストレーションの溜まる試合が続くことになった。事故でしかないディフレクション、そしてエミル・リースへのパスが足1つ分はオフサイドだったように見えるオウンゴールで、開始8分の内に到底アンフェアな2点を背負ったところからのスタート。後半にはデビューのキーファー・ムーアが2点を返したものの、前半3-0ビハインドからの巻き返しなどそうそうできるものではない。
ただもちろん、上位相手の方が戦いやすそうなプレストンの作戦がハマったという面も否めない。実は昨シーズンからそうそうないイプスウィッチのバックライン起因の失点を複数引き出したという点で彼らのプレスは称賛に値していて、特に3点目のシーンで顕著だがある程度動きに裁量を与えられた中でのマス・フォイケア=イェンセンのクレバーな動きには目を見張るものがあった。彼らがこの試合の勝者に相応しいことは確かだ。
その一方、明らかに敗因の一つに「不運」を数える権利があるイプスウィッチではあるが、現実問題としてこの嫌な試合が続く時期に4位転落となったことのメンタル面への影響は考えなければいけない。
思えばこの状況は昨シーズンに似ている。あるいは記録的とすら言える強さを示し続けているのに上/周辺にチームがいる。去年はプリマスとウェンズデイだったが、今シーズンはさらに1つ増えて降格組全3チームと高い争いを繰り広げ続けている。気持ちをすり減らし続ける中での過酷な昇格レース、昨季同様の忍耐と成長力が求められる苦しい時期に入った。
プレイオフ争いではウェストブロムが代名詞とも言うべきフラットな展開から頭一つ抜け出ての1-0勝利で5位をキープ。また大補強に出たハルも右サイドに入ったジェイダン・フィロジーンの復帰即ゴールでミルウォールを下し6位に浮上。ただデビュー戦アナス・ザルーリーの実質アシストとあって見栄えはいいのだが、その開始5分のゴール以降の低調さ、xG 0.45という数字を思うとやはりまだ心配の方が勝つ。
コヴェントリーをPO圏から引きづり下ろす勝利で自身もそのCovと勝ち点で並んでみせたのがノリッジ。もちろん相手の退場者、そしてその後の決勝点がボルハ・サインツの美しい個人技での一発だったことは大いに考慮すべきで相変わらずの勝ち方ではあったのだが、さすがにリーグここ5試合で10ポイントという成績はフラットな目で見てあげる必要があるかもしれない。ここに来てのジョシュ・サージェントの復帰も大きく作用していることは間違いなく、加えてここからは比較的下のチームとの対戦が続く日程。デイヴィッド・ヴァグナーは絶体絶命の危機からの脱出まであと一歩だ。
最後にこのゴールにも一言触れておこう。練習場のタンスからそのまま引っ張り出したような見事なルーティーンも、最後の難易度最高レベルのボレーを決められるこの人の元々の才覚と漲る自信があってこそ。今やキャプテンマークを巻くモーガン・ウィテカーのこのスタジアムでの迷いなきゴールセレブレーションで、プリマスが実に約9ヶ月ぶりとなるアウェイでの勝利を飾った!
League One
リーグここ22試合で1敗しか喫していなかったピーターバラへ、その「1敗」を付けた相手がまたしてもプレゼントしてみせたレアな黒星。今度はアウェイでウィガンの躍動、そしてとりわけの中心は背番号10、テロ・アースゴーアの独壇場である!
ハイライトを見た方は「あれ?」と思うはずだが、この試合での彼の成績は2G1Aだ。3点目の後に3本指を立てている彼には何とも気の毒なことに、ハットトリックではない!リアルタイムで喋っている実況も把握できていなかったが、実は2点目がシュートの途中で触ったジョシュ・マギニスのゴールになってしまった。もしかしたら試合後、マギニスはアースゴーアに何か奢っていたかもしれない。
そんな記録のいたずらは置いておくとしても、いつの間にか21歳になっていた彼が明らかに一皮むけつつある。降格もあり背番号10を与えられて迎えたシーズン、内容だけでなくアウトプットも求められる立場でここまでは正直期待を上回りはしない成績に甘んじていたが、ここ4試合で4G1A(実質5G)と一気にステップアップを示し始めた。2週間前のレディング戦で決めたカーラーも記憶に新しく、先週も決めた中で極めつけはポッシュ相手のこの活躍。1点目で見事なビッグスイッチを決め得点の起点となったチャーリー・ヒューズといい、無限大のポテンシャルを持つ若手たちが伸び伸びとプレイする今のウィガンは見ていて楽しい。
一方のポッシュ、実はこの後火曜のエクセター戦にも敗れ連敗。クワメ・ポクが負傷離脱中で攻撃のバランスにやや歪な部分が生じている印象もあるが、いずれにしても激しい自動昇格争いから置いていかれるわけにはいかない。
下位に目を転じれば、フリートウッドのチャーリー・アダム就任後初勝利が関心を惹く。こちらも実は火曜にも勝って連勝、最下位から一気に22位にまで上がってきた。
何せ自身が指揮した5試合を含め、直近の12試合で3ポイント(!)しか取れていなかったチームである。ホーム、直接の残留争いライバルであるポート・ヴェイルが相手だったとはいえ、3-0という結果を予想できた人は少なかったはずだ。xGでも2.00を記録する内実伴う完勝。この後もレディングやエクセター、さらにポート・ヴェイルとの再戦と順位の近いチームとの対戦が続く中で、急転直下自体好転への希望が見え始めた。
対してポート・ヴェイルはこれを最後にアンディ・クロスビーを解任。アンダーラインデータ的には下振れ傾向もあったとはいえリーグここ21試合で3勝、おまけにここからの数戦でこちらも残留争いの直接対決を複数控える中で判断自体は納得できるところも、そもそもとしてチーム作りへの疑問が拭えないという構造的な問題も見え隠れしている。後任探しが簡単に済むとは思えない。
首位ポーツマス、そして2位に浮上してきたダービーがトップ8では2チームだけとなる勝利を飾った小波乱の週末。特にダービーは暫定監督の下で守備に確かな進境を示したチャールトンに苦戦するも、1つだけ出た相手の凡ミスを見逃さずになんとか勝ち切ることができた。そのチャールトンは新監督にネイサン・ジョーンズが就任。1年前の今頃を思えばL1の残留争いのクラブが彼を迎え入れられたことは快挙と評してよく、難局の打破へ心強い存在が舵を取ることになる。
またL1の項もスーパーゴールで締めておこう。デッドラインデイ補強のデビュー戦、これ以上ないインパクトでのお目見え。ブリストル・ローヴァーズ史上初のコスタリカ出身選手、フォレストのアカデミーでの海のものとも山のものとも判断しかねる下馬評から示した最初の論拠は、ファンに大いなる希望を抱かせる爆裂の左足!背番号10、ブランドン・アギレラの胸をすく一撃をご覧あれ。
League Two
12試合でドローが7つ。引き分けが7試合。少なくとも今週だけは、このリーグに好意的な言葉をかけることはできない!
まあ、だからこそその中でもしっかりと勝ち切ったチームの強さも際立つというもの。やはりヘッドライナーは「19位が2位を破った一戦」しかない。
カール・ロビンソンの就任後3勝2分、勝ち点11は同期間内のリーグトップ。即効性の回復力を誇示する43歳の大ベテランに率いられ、サルフォードが遂に真の実力を示し始めた。
この試合のコンテクストを語る上で重要なのがレクサムのシュートシチュエーションだ。試合前は2位、前節は敗れたもののシーズン中盤戦から明らかにギアを挙げている自動昇格候補の彼らが、この試合で放ったシュート数はたったの6本。しかもそのうちボックス内から放った5本はいずれもコーナーかロングスローからのもので、つまりオープンプレイから打てたシュートはたったの1本だったことになる。しかもしかもそれは90+1分、ボックス内から無闇に打ちブロックされたxG 0.02のものだった。
レクサムを90分間でOPxGA 0.02に抑え込む。これができるチームが果たしてL2にいくら存在するだろうか?それくらいのトータルコントロールを見せたサルフォードの圧巻のパフォーマンス、その要因を新監督に求めないのだとすればそこには無理が生じる。
やはりベテラン、あるいはキャリアの全盛期を既に迎えている選手が揃う今のサルフォードには、前任ニール・ウッドのような育成畑出身の監督よりも、EFLレベルの監督として10年以上のキャリアを持つロビンソンのようなモチヴェーター型の監督の方が合っているのだろう。先週はマット・スミスがマット・スミスでしかない空中戦ドミナンスを見せつけてのハットトリックで勝利、今週もそのスミスが決める一方で実力者エリオット・ワットが(何とも意外なことに)加入2シーズン目にしてサルフォードでの初得点をオリンピックゴールで決めるノリっぷりを披露。もちろん昨季0G16Aの選手がコーナーから直接狙うわけがないのでおそらく偶然の産物なのだが、選手たちがイキイキとしたプレイを見せていることには違いない。
(実は降格圏より近い)10ポイント差とはいえ今からPOを狙うのはさすがに無謀だとしても、ここからの戦いぶり如何では強敵がごそっと抜けそうな来シーズンへの期待が大きく膨らんでくる。決して消化試合ではない残り16試合になりそうだ。
レクサムが順位を2つ下げ、2,3位にはそれぞれ勝った2チームが横滑り。マンスフィールド、バロウ、それぞれがPO圏内のチームを破っての自動昇格圏浮上だというのだからその価値は計り知れない。
ノッツ・カウンティ相手に何物にも代えがたいダブルを手にしたマンスフィールドはデイヴィス・キーラー・ダンのアイコニックな一撃。今のL2では傑出したパフォーマンスを見せるMKドンズにシュート数ほぼダブルスコアを付けたバロウはコール・ストックトンの今季初ゴール。いずれもこのリーグでは名うての点取り屋がその実力を見せつけての1-0勝利、リーグでドロー数トップと2位タイの両チームにとっては、「1を3に変える」決め手に繋がってくるかもしれない。
また首位のストックポートは3連勝中だったハロゲイトと引き分け。遂に落ちないまま8位で30試合目を迎えようとしているハロゲイトは、PO圏7位のノッツとなんとこれで勝ち点差なし。主力のケイン・ラムジーをチャールトンに売却した直後の首位相手ドローゲーム、まだまだ快進撃が止まらない。
そして完全に5チームの争いの様相を呈す残留争いではコルチェスターとフォレストグリーン、サットンとドンカスターというボトム4の直接対決2試合!紛うことなき6ポインター、この残留争いの行方を占う天王山!
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もちろん2つともドローでした。