渡英に伴い今シーズンから始めたこのSubstackも、「23/24シーズン中には」これが最後の更新となる。もちろん近日中に今シーズンのEFL全体を振り返るポストは書こうと思っているし、来シーズン以降これをどういった形で活用していくかについては正直なところまだ決めていないが、一応は一つの区切りとなる時期を迎えた。
1年間に渡りその時その時で進行しているEFLの様々な事柄についてこの場で振り返ってこられたことは、私自身にとっても非常に良いことだった。どうしてもシーズンの最終盤にもなると前半戦に起きた出来事のディテールの部分まではなかなか鮮明に記憶しておくことが難しく、直近の記憶に押し出されて自分の引き出しから逃げていってしまうものだが、今シーズンの場合はこれを見直すことで初期の論調や印象にしっかりとrevisitすることができた。ご覧になっている多くの皆さんにとってもそうだったことを願う。
もちろん今回の更新はLeague One, TwoのPOファイナルとチャンピオンシップのファイナル展望について。L2こそ諸事情で観戦できなかったが、他の2つの決勝戦については幸いにして正規ルートでチケットを取ることができた。ポストシーズンにおいてはある種のテクニックがあれば後ろめたい思いをせずともチケットが比較的取れることがわかったので、これについてはまた機会があれば別記事にて紹介したい(か、何らかの形で直接連絡をもらえれば!)。
League One(5月18日)
ボルトン(3位) 0-2 オックスフォード(5位)
戦前には雨模様まで予想されていた中で、結果的にはなんとか空も我慢してくれた土曜日のウェンブリー。シーズン前の自動昇格フェイヴァリットだった3位ボルトンがUps and Downsのシーズンを過ごした5位オックスフォードと相まみえた一戦、準決勝の勝ち方という面まで含めても、ボルトン優勢という見方が大方を占めてのマッチアップとなった。
もちろんボルトンが大半の時間ボールを支配し、それを直近で守備組織の仕上がりぶりが大いに目立ってきていたオックスフォードが引いて受けるという展開が戦前から予想された中で、ディテールの部分でサプライズとなったのがオックスフォードの守備陣形だった。準決勝ではボルトンと同じく攻撃に強みを持つピーターバラを相手に4-4-2の守備ブロックを築き辛くも反撃を凌ぎ切った彼らが、この決勝では4-3-3のブロックを敷いてきたのだ。あるいはこれは、ボルトンとイアン・エヴァットにとっては想定外のことだったかもしれない。直近で両チームが顔を合わせた3月の対戦ではボルトンが5-0で勝利し、オックスフォードの守備の出来がまったく同じレベルには到達していなかったことも考慮すべきだろう。いずれにしても開始早々の段階から、ボルトンの面々からは大きな焦りが伺えた。
私の周りにいたボルトンファンの雰囲気も同じだった。オックスフォードの卓越したアウトオブポゼッションの陣形が功を奏して、決して細かいビルドアップの起点となることに慣れているわけではないCBのリカルド・サントスに意図的にボールが集められ始めると、なかなかいつものように前進できないボール回しにファンから苛立ちの声が漏れ始めた。ボールをさほど持たない中でもオックスフォードが完全に試合を支配し、ボルトンが立ち上がりに意図していたであろう前進気勢を完全に削いだ段階で、この勝負の行方はほぼ決まってしまったように思う。
そしてそのピッチの反対側で、2アシストのルベン・ロドリゲス、そして2ゴールのジョシュ・マーフィーがPOウィナーに相応しいクオリティを見せつけた。マーフィーが見せた2発の別格のフィニッシュはもちろんとして、その2ゴールに繋げる場面でいずれも1本のパスで彼をスクープしたロドリゲスの視野と技術にも同等の称賛が寄せられて然るべきだ。そうして2点のリードを持って臨んだ後半もオックスフォードの集中力は一瞬たりとも途切れることなく、無事に試合終了の瞬間を迎えた。
オックスフォードにとっては実に1999年以来、25年ぶりとなる2部の舞台。しかし前回彼らがいた時とリーグの様相はまるで異なり、また彼ら自身この間にはナショナルリーグでの日々も経験しての再昇格とあって、この瞬間がもたらす意味合いは計り知れない。
様々な出来事を経験してきた中で、最終的にこの昇格を手繰り寄せた指揮官が39歳のデズ・バッキンガムだったという事実にも特別なエモーションが付随している。ここ数年は常に昇格の有力候補に挙げられながら、コロナ禍の2020年のPO決勝敗退をはじめとしてあと一押しが足りないシーズンが続き、昨シーズンに至ってはその反動か突如残留争いをするまでに低迷。終盤戦に就任したリアム・マニングの下で残留を果たし夏のチーム作りの下で今季は好スタートを切ったものの、そのマニングがブリストル・シティに引き抜かれたことでやってきたのがバッキンガムだった。
オックスフォード生まれ、生まれながらのオックスフォードファンにして、チームのアカデミー出身。しかし極めて若くして選手としてのキャリアを諦めた後にコーチとしての才能を見出され、オックスフォードからシティグループへと移ってからはオーストラリア、ニュージーランド、そして直近ではインドのムンバイ・シティで指揮を執る特異なキャリアパスを歩んできた。インドで勝ち点、ゴール数、得失点のリーグ記録を更新し、満を持して求めに応じたオックスフォードでの再挑戦。それは傍目にはあまりにも理想的で、すべてのクラブのファンが羨むラヴアフェアーだった。
それでもこの世界、すべての物事は必ず複雑に絡まりあう。アンダーラインデータ的にはかなりのoverachieveで上位につけていたマニングのチームを引き継ぐのはどんな監督にとっても難しく、ある意味では必然とも言えた成績の下降によってファンからのプレッシャーが強まり、その経歴に起因する「経験の浅さ」という不可逆的なステレオタイプが彼の立場を苦しめた。就任してから3月までの4ヶ月間、リーグでの連勝は1月に2連勝が1度あっただけ。そして他でもない3月12日のボルトン戦で0-5で敗れた後には、多くのファンが彼の解任さえ予想していたほどだ。
結果的にはその敗戦以降、リーグ最後の8試合が5勝2分1敗。そして最後の最後にはボルトンを下して昇格を勝ち取ったのだから、フットボールはつくづく何が起こるかわからない。劇的に何かを変えたというわけではなく、純粋にバッキンガムが志向するフットボールへの選手の理解度が高まったことがそのアップターンの主要因に見える点も興味深い。守備でやっていることと攻撃でやっていることの連動性があまり見えない中でも、その両極の方向性で内容の伴った結果を出してみせたのだから、やはりチームとしての完成度が上がっているということなのだろう。
カーディフへの1100万ポンドの移籍後は様々な意味で苦しい日々を過ごし、このクラブでもマニングをはじめ過去の監督の下で冷遇され続けてきたマーフィーの輝きを取り戻したのもバッキンガム。シーズン開始後も浪人を続けてきたジョー・ベネットをフリーで獲得し再生させたのもバッキンガム。結果的に彼が信じ続けてきた道の正しさがこれでもかと証明されたウェンブリーでのパフォーマンスになったことは実に喜ばしい。もちろん次はさらに2段はレベルの上がる挑戦が待ち受けることになるが、この上昇気流のままに臨む来シーズン、オックスフォードの成功を否定するに足る要素は今のところ見当たらない。
対して悔いの残る結果、もとよりパフォーマンスに終わってしまったボルトンにはイアン・エヴァットの進退を問う声が以前にも増して強まり、ファンベースを二分する話題となっている。
結論から言えば、彼らがこの夏にエヴァットと袂を分かつのだとすれば、個人的にはあまりにも大きなリスクであるように思う。確かにこの決勝は「完敗」以上と言ってもいいほどの内容だったし、シーズン前の期待値からすれば昇格を果たせなかったことは失敗とカウントされても仕方がない。しかしエヴァット就任後のボルトンの道のり、とりわけL2時代から純然たる順位をシーズン毎に上げ続けてきたことを考えれば、この試合一発で結論を急ぐのは極めてエモーショナルな反応だ。
そもそもこの試合の内容は明らかに今シーズンの中でもワーストと言ってよく、継続的に示されてきた何らかの問題が引き続き現れたわけでは決してない。今シーズンのL1という観点で言えば、自動昇格勢も含めおそらくどのチームが来ていたとしてもこの日のオックスフォードには勝てなかったのではないかと思うくらい、相手が完璧だった中での敗戦だった。またここに至るまでの経緯という意味では、あの準決勝ファーストレグでバーンズリー相手に見せた「プランB」のロングボール戦術が、結果的には選手たちのマインドに悪影響を残してしまったのではないかという思いも拭えない。しかしプランBを持つという選択肢自体は、他でもないファンがエヴァットに訴え続けてきた要望の一つに他ならないのだ。
この完敗についての最大の要因をどこかに求めるとすれば、それはエヴァットが慎重に積み重ねてきたプロセスではなく、ボルトンの現スカッドの中に流れる雰囲気・マインドセットの部分が私には引っかかる。エヴァットはこの決勝の直前、Skyのインタビューにおいて「このウェンブリーに観光気分で来ているようなムードがあったので、今日は選手にスマホ禁止令を出した」というなかなか見ない類のコメントを発していた。スマホ禁止令という解決策の正当性はさておくとして、この発言からは今シーズンのボルトンに時折垣間見えた不自然な脆さとのリンクを想起せずにはいられない。
https://x.com/SkyFootball/status/1791840935543812211
試合中の様子からもその印象が伺えた。いくら相手のプレスによってパスのレーンが制限されていた中とは言えども、とりあえず前に出して中盤の選手が相手を1,2枚剥がす挑戦自体はできそうな場面がいくらでもあった。しかしなかなかそのリスクを取れず、チーム全体として無難なパス回しを選択してしまっていたのは、そういったメンタリティの部分の問題に起因しているように思えてならない。エヴァットは常にピッチライン際で不満を表現していたし、彼の中では相手の出来にではなく自分たちのパフォーマンスに納得のいかない部分が多かったのだろう。
もちろんそのような正しいメンタリティに導くことができなかったのならマネジメントの問題も関係ないとは言えないし、この敗戦に対してエヴァットが一切の責任を負わないのかと問われれば答えはもちろんNoになる。ただ同時に、前を向いて今シーズンの問題点を解消していく努力をするフェーズになった時に、その解決策として「監督解任」が真っ先に挙がってくる正当性は一切感じられない。ここまで彼が尽力してきた積み重ねこそが彼らが今季自動昇格まであと一歩の3位に入った主要因であることに疑いはなく、重要な局面で最良のパフォーマンスを発揮できなかった原因がエヴァットにあるようにはどう穿った見方をしたとしても思えないからだ。
幸いにして、ここまでボルトンのボードが示してきた考え方から想像するに、彼らはこの1試合の敗戦だけで彼の下での歩みを否定するような感情先行の思考プロセスを取るグループではない。ここで早とちりさえしなければ、ボルトンは間違いなく来シーズンの自動昇格争いグループに入ってくるチームとなる。
League Two(5月19日)
クロウリー(7位) 2-0 クルー(6位)
恥ずべき昨シーズンの迷走から抜け出す様子が見えないクロウリーは昨夏とは対照的な無名のノンリーグ選手の獲得に終始し、WAGMIによるクラブ運営へのモチベーションそのものが疑問視される最悪の状況。
今から10ヶ月前、シーズン開幕直前の記事でここまでこき下ろしたチームにあろうことか昇格プレイオフまで勝たれてしまっては、正直なところ立つ瀬がない。それでも、同様の予想をした他のどの(そして大多数の)EFL評論家たちもまったく同じだと思うが、このクロウリー・タウンの歴史に残るシーズン、そしてプレイオフキャンペーンを見て喜ばずにいるのはとても難しい。それほどまでに美しく、尊く、計り知れないストーリーが23/24シーズンのLeague Twoには展開された。イプスウィッチをも上回ると言い切っていい、今シーズンのEFLの “THE“ Story of the Seasonである!
これまでの道のりについてはここ2週の記事などで散々紹介してきた通りなので省略するが、シーズン前には様々な理由からフットボールクラブとしての状態そのものを疑問視されていたような状況から、ただ勝つだけではない特異な方法論に結果も伴っての7位フィニッシュ。そしてPO準決勝では大本命のMKドンズ相手にプレイオフ史上最多得点差となるagg 8-1という凄まじいパフォーマンスを見せ、一気に多くのオーディエンスからの注目を集めるに至った。
対戦相手のクルーもシーズン前は決して芳しい評価を受けていたチームではなかった。降格1シーズン目の昨季は13位、そこから目立った良い方向への変化があったわけでもなく、上積みすら乏しい状況。にもかかわらずシーズン序盤には実にユニークな「後半での圧倒的な挽回能力」を見せ、その後年末に至るあたりまでにはよりジェネラルな強さを身に付けるも、怪我人が続出した中で冬以降に大失速。それでもなんとかPO圏は死守したまま46試合目を終え、準決勝ではシーズン終盤にあの猛烈な勢いを誇ったドンカスター相手に、アウェイで2点差を追いついてからのPK戦勝利というこちらも衝撃的な勝ち方を見せたばかりだった。
総じて似たような経緯を持つ2つの下克上ストーリーがぶつかり合った決勝戦。戦術面での注目は第2戦で前に出て成功したクルーの出方に集まっていたが、クロウリーの支配力を警戒したか彼らはやや引き気味でのスタートを選択。また広く拡散された準決勝でのGKコーリー・アッダイのライトバック化を象徴としてかなり進歩的なスタイルで知られるクロウリーも、この舞台の性質を踏まえてかそれほど大胆な策はとらなかったことで、少々期待されていた打ち合いの展開にはならなかった。
そんな中でもチャンスを作っていたのは随所に洗練された連携を見せたクロウリー、そして何より準決勝に続いて中盤を1人で支配しきったリアム・ケリーの存在だった。試合が決定的な瞬間を欲していた最中での42分の先制点、ウェンブリーでもいつものファン公募によるパフォーマンス “Orsing“ を決めてみせたダニーロ・オーシの見事なフィニッシュももちろんとして、その前のワンツーに至る全てのお膳立てを仕立て上げたケリーの貢献もまた計り知れない。そして85分、試合を決定づける2点目に繋がったラッキーなディフレクションは、その試合終盤に至っても自らの仕事たるポジショナルプレイに徹してDFラインの裏を取った、もっと言えばそれまでの85分間で常にクロウリーの攻撃をオーガナイズし続けてきた、彼への実に妥当なrewardだった。
さらには後半開始早々のシーンについても触れておく必要がある。試合前には両チームの監督から消極的なコメントが発せられた中でもこの試合への参加を果たしたVARが、なんとも珍しいことにフットボール本来の魅力を引き出す一助を担った。ミスパスを狙い撃ちゴールへと突進したクリス・ロングのあの倒れ方でPKの判断がそのまま下されていたとしたら、この試合には大きな曰くがついてしまっていたことだろう。結果的にあのVARがあったことでアッダイの優れたゴールキーピングもフォーカスされ、少なくともあのシーン単体に関しては正義がなされる形になった。間違いなく試合が正しい方向に導かれた一瞬だった。
クラブ史上初のウェンブリーでいきなりプレイオフ史に残るが如き物語を完結させたクロウリーには、10年ぶりとなるLeague Oneでのシーズンが待ち構える。もちろん相対評価で言えばリソース面で優位に立てるとは言い難く、そもそもとして今シーズンでさえOPxGAはなんとリーグ最下位。それをアッダイの異次元のセービングで防いできたことでの上位進出だった点は無視できず、そのアッダイが契約切れによる退団濃厚という状況下では、強気な予想を立てることは難しい。
しかしながら一方で、その状況は今シーズンが始まる前でさえ同じだった。そこからここまでのサクセスストーリーを描いた背景には、まず第一に監督のスコット・リンジーの存在がある。決勝戦の前には妻の死、残された3人の子どもたちとの生活、現役時代のメンタルヘルスの問題を語った極めてエモーショナルなインタビューでも大きな反響を生んだ彼は、まさにピッチの中でも外でも凄まじいインスピレーションとなった。ほぼ寄せ集めと言っていいチームで最高難易度に近いスタイルに挑戦し、1人1人の頭脳を鍛えた上での超overachieveを果たしてみせた彼は、明らかにこの成功の最大の功労者だ。
そして神業とも言うべきリクルートメントも見逃せない。前述のケリーはかつてレディング時代ヤープ・スタムに若くしてチームの中軸に据えられ、よもや彼に引き連れられフェイエノールトへの移籍も果たしたほどの選手だったが、そこからのキャリアは下降の一途を辿ったことで昨季はL2から降格したロッチデイルからリリース。クロウリーにはフリーでやってきた選手だ。
さらには今シーズン25ゴールのオーシも過去L2でのシーズン最多得点数は「2」ながらxGの高さに着目しグリムズビーから夏に安価で獲得、他の中核級でも例えばクライディ・ロロスは昨季6部のオックスフォード・シティでプレイしていた選手でこちらもフリー獲得、ジェイ・ウィリアムズも昨季は6部でプレイしていた選手だ。極めつけは今や不動のLWBとなったジェレミー・ケリーで、彼はこの1月までアメリカ2部のFCトゥルサに在籍していた。データドリブンなのは間違いないにしても、そのデータの網羅範囲自体に驚くしかないスカウティングネットワークである。
昨シーズンには何かと悪い意味で注目を集めることが多かったオーナーグループのWAGMI Unitedだが、この1年の間に驚異の進歩を見せた。オーナーとして必要以上に表に立つことなく、粛々とデータに応じた意思決定プロセスを積み重ねる。そんな彼らの姿勢に結果がついてくるのは今思えば必然の成り行きで、また長期的な成功への礎にもなる可能性がある歩みの進め方と言っていい。この体制が続く限りは、クロウリーの今後長きに渡る展望を楽観視することは難しくないだろう。
一方敗れたクルーも、当然のことながらこの1試合の敗戦を深刻に捉えすぎる必要はまったくない。試合内容からしてもファンとしては諦めの付く敗戦で、それ以前に「ここまで来られたこと」を真っ先に評価すべきという地に足のついた姿勢が伺えるのは非常に喜ばしい。早くもエースの1人エリオット・ネヴィットの放出が発表されるなど台所事情には苦しい点も垣間見えるが、監督のリー・ベル以下自慢のアカデミー出身者をはじめとした中核メンバーの慰留に成功できれば、成功への下地は既に整っていると見ていいはずだ。
チャンピオンシップ
日曜日に迎える今シーズンのイングリッシュフットボール最終戦、実はあまり前例のない「パラシュートチーム同士のPOファイナル」が実現した。3位と4位、90ポイントと87ポイント。これだけを見れば妥当に思えるリーズとサウサンプトンの顔合わせだが、もちろんここに至るまでには大きな紆余曲折が存在していた。
結果的には第1戦、アウェイでのあまりに内容に乏しい0-0がダニエル・ファルケの見事なゲームプランだったと評すべきリーズとノリッジの準決勝。第2戦のホームゲーム、ここ1,2ヶ月ほどで溜まりに溜まった鬱憤を一気に晴らすかの如きリーズ本来のパフォーマンスは、この試合直後に(正当にも)デイヴィッド・ヴァグナーを解任することになるノリッジにはあまりにも荷が重いものだった。
その第2戦を迎えるまでのリーズの低調な出来にはいくつかの理由が考えられる。しかし最もシンプルな形でそれらを表現するとすれば、「2列目の選手たちの出来落ち」と言えるだろう。とりわけリーグ最優秀選手のクリセンシオ・サマヴィル、そして言わずと知れたジョルジニオ・ルターの顕著なゴールコントリビューションの低下が、彼らの創造性と機動力を何にも増しての武器とするリーズのunderperformに繋がっていることは火を見るよりも明らかだった。故にアーチー・グレイを軸としてこの時期に様々な新システムを試すなど、うまくいくわけのない試行錯誤が続いてしまっていた近況だった。
エランド・ロードでの大一番、これまでやってきた基本形に戻しての一戦では、あのイリヤ・グルエフのフリーキックが先制点となる以前から彼らの持ち味たるインテンシティの高さがしっかりと発揮され、久しぶりに2列目が手の付けられない状態に入っていた。これにはもちろん実に中途半端だったノリッジ側の問題もあったにせよ、ここでしっかりと自身のベストの姿を思い出すことができたリーズのunplayableぶりが目立っていたように思う。もちろんそのパフォーマンスをウェンブリーの独特の舞台で発揮できるかどうかはまた別問題ではあるが、少なくとも彼らが取るべき作戦はもう明らかだ。
こちらも第1戦は決定機を欠いてのゴールレスドロー。さらには第2戦の前半まで同じような展開が続いていた中で、合計スコア3-1という結果のみをもってウェストブロムとカルロス・コルベランが選んだプランの正当性を否定することは私にはできない。互いが非常にレベルの高いオフザボールの攻防に終始した中で試合を動かしたのはたった1つのミス、その戦いを制したサウサンプトンとラッセル・マーティンにもまた、もちろん同じだけの称賛を贈る必要がある。
結局シェイ・アダムズが2試合とも欠場となり、シーズン中とはやや異なるアプローチでの戦いを余儀なくされた中でも、PO初挑戦で最悪の相手との戦いを余儀なくされたマーティンは見事に180分間をマネジメントしてみせた。双方ともに1点でも取られれば一気に状況が悪化してしまうであろう緊迫した展開が続き、その状況下にあってもセットプレイや自陣でのパスミスといったリスクを最小限に抑え切り完勝を収めてみせたのだから、この試合でセインツ、そしてマーティンの守備面での新味がアピールされたという見方もできる。さらにその意味で言えば、決勝戦に臨む彼らの出方も未だ煙に巻かれている。忘れてはならない最終節リーズ戦での3-5-2での勝利、その後のPOではいつもの4バックシステムに戻していたが、リーズにとっては頭の痛い問題になる。
そんな両チームが相見えるウェンブリーでの決勝戦。まず注目すべきはリーズの左サイドにしてサウサンプトンの右サイド、サマヴィルとカイル・ウォーカー=ピーターズのマッチアップだ。これは通常の「ウイングvs対面フルバック」の攻防とはやや趣が異なり、「両チームの最大の攻撃面の脅威」がたまたま対面の位置でのぶつかり合う興味深い巡りあわせだ。サマヴィルの方はもう説明するまでもないとして、セインツにおけるライトバック、ウォーカー=ピーターズの攻撃参加は極めて重要な意味を持つ。そのタイトスペースでの落ち着きやシンプルに前線に攻め上がっていってのクロス供給など、彼がいることによってもたらされる攻撃面でのアドバンテージは計り知れない。
その意味でここの陣取り合戦は非常に大きな意味を持つ。サマヴィルがウォーカー=ピーターズを守備ロールにピン止めできればリーズの優位が揺るがないものになり、逆にトラックバック面で特段の強みを持つわけではないサマヴィルを利用してウォーカー=ピーターズが自由に攻め上がる展開となればセインツに文字通りの幅が増す。ここが勝敗を分ける大きなポイントになるはずだ。
同様にはピッチ中央ではジョルジニオ・ルターとフリン・ダウンズが対峙する。ここもセインツのキーマンの1人であるダウンズがどれだけルターの対応に追われるか次第、引いてはやや不安定さが目立つルターの出来次第で、試合の様相が大きく異なってくる可能性が高い。ちょうど中心選手が対面となる組み合わせとあって、ウェンブリーでは興味深いマッチアップが各所で展開されそうだ。
勝敗予想は困難を極める。ポイントとしては明らかに上記2つの点になるが、マッチアップする選手の実力を思えばそれがどう転ぶかを見極めるのは本当に難しい。なので試合前にはそこまで深く考えず、私としては現地でじっくりとその成り行きを見守ることにする。
いよいよ迎える今シーズンのラストゲーム。キックオフの時が本当に待ちきれない。